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第2話 夢は屯(たむろ)する (その19)
「おいおい、気は確かか?」と言いたくなる。

バスローブが見当たらないと言うことは、美由紀はどんな格好でいるというのだ。
裸に近いのだろう。
そこに俺を呼ぶのかよ。
それって、俺をからかっているのか?
それとも、試しているのか?

いずれにしても、普通の女の子がやることではない。
源次郎は、少しだけ兄貴風を吹かせたくなる。

「そんなもの、バスルームの中においてないんですか?よく探しました?」
すると、バスルームからは何の返答も無い。
「入るときに、ちゃんと確認してなかったんですか?」
返事が無いのは、探したら、そこにあったからなのだろうと、源次郎は勝手にそう思った。

すると、いきなりバスルームのドアが開いて、胸のところでバスタオルを巻いただけの美由紀が飛び出してくる。
タオルの幅が短いのか、ようやっとのことで腰の部分が隠れてはいるが、ちょっとでも動けば、その下が見えそうな格好である。

「ねぇ、源ちゃん。源ちゃんは、私専属のスタッフじゃなかったっけ。支配人からそう聞いたでしょ。だったら、私の言うことは聞いてよ。バスローブが見当たらないって言ってんだから、素直に探してくれればいいのよ。つべこべ言わないで!」
相当な剣幕である。
顔色がまともではない。
目つきも違う。

源次郎は、びっくりする。兄貴風も一瞬にしてどこかへ吹っ飛んでしまう。

源次郎は「しまった、エライことを言うてしもた」と思いつつ、慌てて開いたままとなっているドアからバスルームに入っていく。
そう言えば、電話で、支配人が「NOは禁句」だと言っていたことを改めて思い出す。
「多少我侭だが,根はいい子だ」とも言ったが、それは違うような気もする。

最初にここに入ったときには、棚の上にタオル類が重ねておいてあったことを思い出す。
普通なら、バスローブは、それと一緒においてあるはずではないか、と源次郎は思う。
その棚を見るが、既に何もない。
足元には、脱衣籠が放り出されている。
その中には、美由紀が着ていたらしい洋服が無造作に投げ込まれている。
まさか、この下には無いだろうな、と思いつつも、念のためにと、その衣類の下を探ってみる。
洋服の下からは、美由紀の下着やストッキングが出てきただけで、バスローブのような大きなものは見当たらない。

本当にないのか。それとも、他の場所においてあるのか。
こうしたホテルもほとんど利用したことの無い源次郎には、これ以上、想像することは出来なかった。

「ねぇ、ないでしょう?フロントに文句言って、持ってこさせて。直ぐに。」
美由紀の怒っている声が響いてくる。

源次郎は、「それが近道だな」と思って、バスルームから出る。
そして、電話機のところへ向おうとして、ソファに座っている美由紀を見て、これまた息を飲む。
身体に付けている筈のバスタオルなのだが、ソファに深々と座っているせいで、その下が丸見えでなのである。

源次郎は、何かを言おうとしたが、それをすべて飲み込むことにする。
「そうなのだ、俺は、この子に雇われた身なのだ」と改めて感じたのである。


フロントへ電話をする。バスローブが無いと言うと、クローゼットに入っていると言う。
電話をしながら、辺りを見渡す。
「お部屋へ入られて直ぐ右手にございます。」と先を越される。
電話を切って、そのクローゼットを開けに行く。
中には、男女用なのだろう、ブルーとピンクの2枚のバスローブがハンガーにかけられていた。
そのうち、ピンクのものを手にとって、美由紀のところへ持って行く。


「ありがとう」と美由紀が受け取る。
美由紀は、源次郎に背中を向けて、上からバスローブに袖を通して、そして、バスタオルを下に落とす。

「源ちゃん、このタオル、バスルームに持って行っておいて。あっ!それから、源ちゃんの荷物もここに持ってこなきゃね。」

バスタオルを取りに動きかけた源次郎の動きが、ふと止まった。


(つづく)


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