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第2話 夢は屯(たむろ)する (その189)
「あの人・・・・・・。」
最初に口を開いたのはサキだった。

支配人がその言葉を受けてつなぐ。
「俺も、噂は耳にしていた。その記事にしたって、断定はしていない。だが、遅かれ早かれ・・・らしい。取引銀行がとうとう手を引き始めたそうだ。」
「それで・・・・どうなるんですか?」
サキが慄くような声で訊く。
「そうなれば、網元としての仕事は続けられなくなる。船も全すべて取られるからな。厳しい話だが、それが現実だ。」
「子供、あの子は?・・・・・・・」
「そこまでは分らん。だが、入院費用も馬鹿にはならんから、そこらがどうなるかだな。」
「でも、事業と子供は関係ないですから・・・・。」
「理屈はそうなる。だが、やはり病院もボランティアでやってる訳ではないから、どうしても金の問題になる。事業資金は焦げ付いても、個人資金は大丈夫ってことは、まずないだろう。当然に、そうしたところへの金も回らなくなる。これは覚悟しておく必要があるだろうな。」

「でも、・・・・あの子が病院を出されたら・・・・」
サキは、事業のことよりも子供のことが気になって仕方が無い。
それは自然なことである。
「病院に入院させられなくなったら、当然、自宅へ、ということなんだろう。」
「でも、・・・そうなったら・・・・・」
サキは声にならない悲鳴のように言う。
「そうだな、そうなれば、サキはもうあの子には会えなくなる。」
「そんな!」
サキは気が狂いそうな顔をする。

「だから、うちで引き取って、と言ってるんじゃないか。」
富が突然に割ってはいる。
「なっ!サキ、そうしよう。2人でがんばりゃ、何とかなるさ。」
その富の言葉に、サキはハンカチで顔を蔽ってしまう。

「富、そこがお前の駄目なところだ。何度言ったら分るんだ!」
支配人は富をしかりつけた。
「で、でも、・・・ここまで来りゃあ、同じことだろ?」
富も、懸命に支配人に反論を試みる。

「何が同じだ?同じなもんか!」
支配人はそう言って富の意見を全面否定する。
「病院を出されて、自宅で面倒を見るって言うんだから、そこがあっちであるかこっちであるかの違いだけだろ?だったらさ・・・」
富は必死である。

「同じだと言い切れるんだったら、あっちに任せな。その方が楽だぞ。」
支配人は敢えて冷たい表現を使った。
「でも、そんなことしたら、サキが可哀想じゃねぇか。兄貴は、そこまで冷酷になれるんだな。」
富の怒りがかなりのところまで高まってきた。
「俺は、サキの為を思って言ってるんだ。それがわからねぇのか!」
支配人も、今にも手に持っているグラスを投げつけそうである。

源次郎は息を呑んだ。
何とかしないと・・・・と思って、美由紀の顔を見る。
ところが、美由紀は涼しい顔をして、イクラの軍艦巻きを口に運んでいた。


(つづく)



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