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第2話 夢は屯(たむろ)する (その17)
「そんな筈はないですよ。今だって、かなりご機嫌悪いんですから。」
源次郎は、背中に美由紀の視線をことさらに感じている。

「なに!?・・・・何かまずいことでもしたのか?」
「いえ、言いつけられたことはきちんとやりましたよ。」
「だったら、ご機嫌が悪くなることはなかろう?」
「う〜ん。・・・・ただ、僕とは相性が悪いと思われているんじゃないですか?」
「そんなことは、そんな筈はない。だから、さっきから言ってるだろ。本人に聞いてみろって。」
「そんなの、聞けやしませんよ。」
「よし、じゃあ、こうしよう。俺からミッキーに訊いてみる。それで、ミッキーがOKしたら、君が専属スタッフだ。それでいいな。」
「そんなの訊くだけ無駄ですよ。」
「いいから、もう一度ミッキーに代わってくれ。」
源次郎は、しぶしぶ代わることにする。

「もう一度、代わって欲しいと。」
そういって、受話器を美由紀に返す。
源次郎は、答えを聞くのが嫌だった。年下の女の子に「彼は駄目」と言われたくはなかった。
だから、電話が終わったらすぐにそこを出られるように、入り口のドアの近くまで移動する。
そして、片手で、ドアのノブを握り締める。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ああ、そういうことね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「うん、私はそれでもいいわよ。でも、途中で投げ出されるのは嫌だからね。それだけは、しっかり言ってよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「わかったわよ。約束さえちゃんと守ってくれるんなら、私もプロですからね、やることはちゃんとやるわよ。」
「・・・・・・・・・・」
「はい、それじゃ、ちゃんと言ってよね。代わるわ。」

美由紀は黙って受話器をテーブルの上において、源次郎に向って、これを取れ、と仕草で合図する。
そして、自分はバスルームの方へ向って行く。

源次郎は、美由紀の声だけを聞いてはいたが、どうやら支配人が言ったとおりの状況となったようだとは思っていた。
「はい、吉岡です。」
「おい、お聞きの通りだ。ミッキーは君を専属でつけることをOKしたぞ。もう、これで君もブツブツは言えん筈だ。」
支配人のうきうきした気配が伝わってくる。
「ちょっと、待ってくださいよ。そりゃ彼女がそれでいいと言ったとしてもですね、僕は具体的な仕事の内容も分らないのに・・・・・」
「そんなことは、簡単なことだ。ただ、ミッキーの指示通りに動いてくれればそれだけでいい。何も、特別なことはないんだ。」
「それって、荷物運びのようなことなんですか?」
「あははは・・・・・、まぁ、よく似たようなものだ。とにかくだ、ミッキーの言うとおりにさせてやってくれ。絶対にNOは禁句だからな。彼女、少し我侭なところはあるが、決して悪い子じゃない。じゃあ、頼んだぜ。」
支配人は、一方的に電話を切った。

「あっ!・・・」と言葉を挟もうとした源次郎だったが、その声が届くか届かないかで、切られてしまった。
仕事は何時から何時まで?、時給は?、泊まる場所は?、今晩のご飯はどこで?・・・・・と、源次郎が確認しなければならないことはまだ沢山あった。
だのに、ともかくは、仕事をすることだけが決められたようである。
こんな無茶苦茶なことがあるか、と源次郎は憤慨する。


受話器を置くと、辺りはバスルームから聞こえるシャワーのかすかな音だけである。

これから、どうする?
源次郎は、誰にともなく、そう訊かずにはいられなかった。


(つづく)




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