第2話 夢は屯(たむろ)する (その169)
「お兄さん・・・・・本当に、有難うございました。恩にきます。」
サキがそう言って、深々と頭を下げた。
頭を下げられた源次郎だが、そんなことよりも、こうして2人がそこにいてくれたことの方が、何より嬉しかった。
「まあまあ、お2人とも、そんなところで密会しなくっても・・・・・。」
冗談を言うつもりが、逆に変に引きつってしまう。
2人の気持が何となく分るからだ。
ずっこけるようにして入ってきた富は、何で源次郎にそのように言われるのかさえ理解していないようだ。
「どこへ行くつもりだったんだ?便所なら、あっちの方が近いぜ。」
源次郎がまるでトイレを探しに出てきたとでも勘違いをしている。
すかさず、その後ろからサキが富の背中をバシッ!と叩く。
「あんたは、何てことを言うの!・・・・お兄さんは、私たちを探しておられたんだよ。・・・・また、無茶をしないかってね。」
苦笑する源次郎に向って、まるで悪戯をした小さな子供を連れて謝りに来た母親のように、富の頭を押さえつけるようにして下げさせる。
「もう・・・・無茶なことはしませんって、言うんだよ。」
サキは、富にそう言う。
さすがに富は不満そうである。
「だって・・・・」と子供がやるように口を尖がらせる。
「そんなことは、もう良いじゃないですか。事務所でお茶でも飲みませんか?」
源次郎は、そう言って、2人の間を取り持った。
事務所に戻って、源次郎は、小銭を出して、自販機で缶コーヒーと缶ジュースを買った。
そして、2人に「お好きなものを」と言った。
一応は、富には缶コーヒー、サキにはジュースを、と思っていたのだが、サキがその全ての缶を開けて、自分と源次郎の前に缶コーヒーを、そして富の前に缶ジュースを置いた。
源次郎には意外だった。
サキが缶コーヒーを選んだのもそうだし、富がジュースを与えられても何も言わなかったことである。
そして、さらに言えば、この2人の間では、こうした面ではサキの方が主導権を握っていると感じられたことである。
「お兄さんのおかげです。改めて御礼を言わせてください。」
サキは、そう言って、再度両手を机の上に揃えて置いて、頭を下げた。
富は、ジュースを飲みかけていたが、サキのその姿を見て、慌てて同じように頭を下げた。
「だから、もうそんなことはいいじゃないですか。」
源次郎は、本心からそう言えた。
これだけサキに言われるということは、美由紀もサキから同じ内容を聞いていると思ったからである。
例え他の人間がどのように思おうと関心はないが、やはり美由紀にだけは信頼される人間でいたいと思うのだ。
「いえ、あの時、お兄さんが私を見つけて頂けなかったら、今頃は、私、舞台に穴を空けていました。・・・・・それを考えると・・・・・。」
サキの言葉に、富が驚愕の顔を見せる。
「えっ!?・・・・・・」
富には、まだその話の詳細が伝わってはいないようである。
(つづく)
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