ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その16)
電話を代わると、あの初老の支配人がやけに優しげな話し方をしてくる。

「君は、仕事を探してたんだよね。」
「まあ、そうですけれど・・・」
源次郎は、半ばやけくそのような気持で答える。

「あっ!まだ、名前訊いてなかったよな。」
「・・よ、吉岡源次郎です。」
源次郎は、一瞬だが、本名を名乗るかどうかを迷った。
まさか、こんなところで身元照会はしないだろうが、やはり逮捕暦があることは知られたくはなかった。
それに、大阪の両親も探しているかもしれないのだ。少なくとも、母は今小樽にいることを知っている。

「吉岡君か。それでだ、仕事のことなんだが、本当はうちの方で裏方さん兼俳優さんを探していたんだが・・・・・」
「初めて聞くんですよ、そうした内容は。あの、確か、富さんとか言われた方が、男でなけりゃあ出来ない仕事があると言われたので、連れて行ってもらったんですよ。でも、俳優なんてのは無理ですよ。何しろやったことがないもので。」
「あははは・・・そうかい、でも、そんな難しいことじゃないし、それに裏方だったらできるだろ?どうやら、泊まるところも決まってないみたいだし、どうだ、続くかどうかは君次第だが、とりあえずはやってみないか。飯と泊まるところは用意するし、小遣いもやるぞ。」
「まあ、とりあえず、ということであれば、やってはみます。」
「そうか、・・・・・そういうことだったら、・・・・・・ひとつ頼みがある。」
支配人は、これからの依頼を断れないようにしたのだ。
源次郎は、何となく、不安な感じがする。

「さきほど、言われたことは、ちゃんとやりましたよ。」
源次郎は、防御線だけは張っておこうと思う。
「それは、ミッキーから聞いた。それでだ、実はな、そのミッキーにうちの方に来てもらうにあたってだ、滞在期間中、ミッキー専属のスタッフを準備すると約束したんだ。」
「はぁ、それで・・・」
「ところがだ、これがなかなか見つからん。」
「・・・・それは、僕とは関係ないことです。」
「おい、冷たいことを言うなよ。」
冷たいもくそもあるか、と源次郎は思った。
ミッキーに「迎えはどうなった」と叱られて、たまたま傍にいた俺にここまで送らせただけじゃないか。
それまでに、ちゃんと雇うとも言ってないくせに。都合のいいときだけ使いやがって・・・・と思っている。

「いったい、どうしろと。」
源次郎は開き直っている。
「どうやら、そのスタッフは、ミッキー自らが見つけたみたいなんだ。」
「はぁ?・・・どういうことですか?」
「君だ。吉岡君だ。」
「・・・・・どういうことですか?分るように説明してくれませんか?場合によっては、降りますから。」
源次郎は、背中にミッキー、いや佐崎美由紀の視線を感じている。

「ミッキーは何も言わんが、どうやら、君を気に入ったようだ。そうでなければ、君を帰した後で電話してくるはずだ。それを、君を帰さずに、そこに留め置いたまま電話してくるのは、君を自分専属のスタッフにしろと言っているのと同じなんだ。分るか?」
「そんなこと、分かりません。第一、それは支配人がそう思うだけでしょう?」
「おう、そうかも知れん。だけどな、だったら、ミッキーがそうだと言えば、君はこの仕事請けてくれるのか?」
支配人は、かなりの自信でそう言っている。
「全共闘」のリーダーの一人だった薮田の話しっぷりとよく似ている。

「でも、どんなことをすればいいのかも知らないんですからね。何とも答えようがありません。」
源次郎の本心はそこにある。
確かに、仕事は欲しいし、泊まるところも確保したい。それは、そうなのだが、かといって、できないことを無理してまでやる気迫は無い。そんな根性も無い。

「だったら、自分の口で、ミッキーに聞いてみればいい。そうすれば、分るはずだ。そうだろう?」
支配人は、源次郎の弱いところをちゃんと押さえているのだ。


(つづく)




+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。