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第2話 夢は屯(だむろ)する (その159)
2人は、事務所に戻った。

本日2回目の公演が終わって、3回目の公演の準備が行われているところであった。

「淺川は?」
支配人は、入るなり大きな声で誰にともなく訊く。
「呼んできます。」
と、誰かが奥へと走った。

源次郎は、そこにいるかもしれない美由紀の姿を探していた。
「お帰りなさい。・・・・ミッキーさんから、いつもの所にいますからって、伝えて欲しいと頼まれました。」
あの化粧担当の女の子が耳打ちをしてくれる。
源次郎は、ほっとした。
と同時に、何となく、申し訳ないことをしたような気になっている。

「支配人、ご苦労様でした。」
奥から、やや痩せた背の高い男がやってきてそう言った。
「おう、淺川、無事に終わったみたいだな。」
支配人は、周囲の雰囲気から、舞台でのトラブルなどがなかったことを察知していたようである。
「はい、多少、気合不足のような感じはありましたが・・・」
淺川と呼ばれた男が、そう言って頭に手をやった。
「まぁ、致し方あるまい。・・・ゴタゴタがあれば、舞台にそれが出るのは止むを得んだろう。・・・ところで、張本人のサキは?」
「・・・・それが、ちょっと出てるんで・・・。」
「なに!・・・あれほど、俺が戻るまで外に出すなと言っておいたのに。」
支配人は、顔色を変えた。
「いえ、・・・・それがですね、ミッキーさんが預かるからと言われて・・・」
淺川は、主役の、しかも客員であるミッキーに言われたら・・・という顔をする。

支配人がなぜかしら黙り込む。
今にも爆弾を落とされそうだと思うのか、淺川は身を小さくして、支配人の顔色を窺っている。
「・・・・・・・・・分った。ミッキーが一緒なんだな。」
支配人は、それだけを確認する。
淺川は黙って首を縦に振る。

「吉岡君、ちぃと来てくれ。」
しばらく考え込んでいた支配人が、奥の通路へ向いながら源次郎にそう言う。
源次郎は、今すぐにでも美由紀の所へ走って行きたいのを我慢しながらも付いていく。

奥の通路をクネクネと曲がって歩いていく。
何か言いたいのだけれど、源次郎は何も言えない。
いや、言わさない支配人の後姿なのである。
奥まったところにある鉄製の階段を上っていく。
源次郎がはじめて足を踏み入れるエリアである。

階段を上がったところには、小さな部屋があった。
まるで、隠れ家のような雰囲気のところである。
「ここは、調整室だ。・・・ここから、舞台の全てが見通せる。」
支配人はそう説明をしながら、空いている椅子に源次郎を座らせる。

支配人が電話をかける。
何も見ないでかけているのだから、暗記している番号なのだ。
つまり、頻繁にかける先だと言うことである。

「東劇場の甲村だが・・・・、いるかい?」
相手が、誰かを電話口まで呼んでいるようだ。
「おう・・・俺だ。・・・・今戻ってきた。・・・・心配はしなくてもいい。大丈夫だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それは、今日の舞台がハネたら、ちゃんと話そう。富も入れてな。」
「・・・・・・・・・・」
「そうか、じゃあ、時間になったら一緒に戻って来い。・・・いいな?」
それで、電話が終わった。

「さすがにミッキーだな。俺が何を考えてるのかをよ〜く知ってら。」
支配人は、なぜかしら満足げな笑みを見せる。
源次郎は、声が出なかった。


(つづく)



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