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第2話 夢は屯(たむろ)する (その15)
源次郎は、答えたくなかった。

多分ではあるが、この美由紀は自分より年下だろう。
例え、ストリップ業界では多少は名前が売れているのだとしても、まだ小娘である。
どこかで不良少女でもやっていて、まともな仕事に就けなくて、仕方なくストリップの踊り子になったのに違いないのだ。そんな娘に、いちいちそのようなことを説明する必要はないと思っている。

最初から、こちらを見下げたような言い方が、源次郎の感情を逆撫でしている。

「ねぇってば、答えないの?」
美由紀は、いらいらするように煙草をせっかちに吸う。

「じゃあ、僕はこれで帰りますから。」
源次郎は、本気でそう言った。
支配人に言いつけられたことは、このホテルまで送ってきて、フロントに届いているはずの荷物を部屋まで持って上がることだけである。
それは、すべて終わっている。もう、ここにいる必要もない。
これから、あの劇場まで戻って、支配人に、これからの仕事のことを確かめねばならないのだ。

「あっ、そうなの?だったら、明日、サインなんかしないわよ。私、忙しいんだから。」
美由紀は、怒ったように言う。
「サイン」と聞いて、源次郎は思い出す。先ほどの運ちゃんとの約束である。
「それと、これとは、話が別でしょう?約束したことは守ってくださいよ。そうでなきゃ、あの運ちゃんに悪いでしょう。」
「約束?そっちが約束守らないんだから、当然でしょ。」
美由紀は平然とそう言って、また新たな煙草に火をつける。

「僕はちゃんと言われたことはやりましたよ。どこが約束と違うんですか?」
源次郎も、多少興奮気味である。

美由紀は、黙ったままハンドバックから手帳を取り出す。
そして、パラパラ捲っていたかと思うと、ある箇所を指で押さえて、電話機に手を伸ばす。
ダイヤルを回す。まだ、プッシュ式の電話機が珍しい時代である。
「ミッキーですけと゜、支配人いる?」
どうやら、劇場のあの初老の支配人に電話しているようである。

しばらくして、支配人が電話口に出たらしい。
「ああ、支配人。約束していた迎えの人って、この人じゃないの?一体、どうなってるのよ。約束どおりにしてくれないんなら、私、東京へ帰るわよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうして、そういうことになるの?ちゃんとするって言うから来てるんじゃない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だからさ、いろいろとあって、というのは分ったけど、だったらどうするのよ。帰ってもいいのね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなのは駄目よ。私、我慢できない。このまま帰る。義理があるからと思って来てるんだよ。せめてさ、頼んだことぐらいちゃんとやってよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それは分ってるわよ。だから、義理があるし、来なきゃと思ってスケジュールを空けてるんじゃない。でもさ、それと、頼んだこととは、次元が違うでしょ。同じように考えないでよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ここにいるわよ。代わるのね。分ったわ。」

「支配人よ。あんたに代わってくれって。」
美由紀は、受話器を源次郎に向って突き出してくる。

源次郎は、何とも不思議な気持で、その受話器を受け取ることになる。


(つづく)


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