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第2話 夢は屯(たむろ)する (その14)
サンライズホテルは二流のホテルのようだった。

佐崎美由紀がフロントへ向う。
源次郎は、彼女の化粧ケースを持って、その後ろをついて行く。

初めて会ったときには、「何と生意気な小娘」と思ったが、あの初老の支配人やタクシーの運ちゃんの話から、どうやらストリップ業界では結構有名な踊り子らしいことだけは分ってきた。

「佐崎美由紀ですけれど、部屋は何階かしら。」とフロントの男に訊いている。
「いらっしゃいませ、佐崎様でございますね。はい、承ってございます。お部屋は最上階の803号室でございます。」とフロントがキーを取り出しながら答える。
「私の荷物届いてるかしら?」
「はい、それもお部屋に運ばさせて頂いております。これが、お荷物の送り状で。」
美由紀は、その伝票をチラッとだけ見て、キーを受け取ってエレベーターの方へ歩いていく。
源次郎は、慌ててその後ろを付いていく。

「よかったわね。荷物運ばなくてもよくなったわよ。」と美由紀が笑うように言う。

部屋に入ると、そこはさすがに最上階だというだけのことはあって、眺望は見事だった。
海までが展望できる。

「ねえ、あんた、あそこの人じゃないって言ってたのに、どうしてこんな役目をすることになったの?」
美由紀は、応接セットのように組まれている長いソファーに座って訊いてくる。
答えに困った源次郎は、手にしていた化粧ケースを持ち上げて、
「このケースは、どこに置いたらいいですか?」と的が外れた事を逆に訊く。

「それは化粧ケースよ。どこに置くかは見れば分るはずよ。」
美由紀は、自分の質問に源次郎が素直に答えなかったことに腹を立てたようである。
置く場所を指定せずに、源次郎に考えさせるつもりのようだ。

源次郎は、周りを見渡す。
女が化粧するときに使うのだから、やはり化粧台のところだな、とは思うが、それがどこにあるのかが分らない。
「その辺のドアも開けてみないと分らないわよ。」
美由紀は、少し意地悪な言い方をする。
そして、ハンドバッグから煙草を取り出してライターで火をつける。

源次郎は、幾つかある小さなドアを開けてみる。
最初のドアは、トイレだった。洋式の水洗トイレである。
次のドアを開けると、バスルームだった。
大きな大理石で出来たような豪華な風呂である。
その入った直ぐのところに大きな鏡がついた洗面台があった。
一瞬、ここに置くべきか、とも思ったが、風呂の湯気が充満する場所である。
やはり、ここに置くのは違うだろう、と思い直す。

今度は反対側のドアを開ける。
そこは、ベッドールームであった。
部屋の真ん中に、大きなダブルベッドがでんと据えられている。
窓がバルコニーのようになっていて、とてもお洒落に見える。
その部屋の一角に、大きな鏡が付いた化粧台が置かれてあった。
木製の縁取りだが、重厚感のある豪華な感じのするものである。

ここだな。置くべきところは。
源次郎は、そう考えて、その化粧台の上にケースをそっと置いて、部屋を出た。

「よく分かったわね。男としてのセンスは一応はあるのね。」
美由紀は、嬉しそうにそう言った。

「ところで、さっきの質問には、まだ答えてないわよ。」
美由紀が、足を組み替えて、源次郎を睨むように再び問い直す。


(つづく)


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