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第2話 夢は屯(たむろ)する (その139)
「・・・・・・・そうなんだが・・・・」
富は、珍しく頭を掻く。
大男が、ポリポリと頭を掻く仕草は、滑稽で、それでいてどこか可愛げに映る。

「支配人は許さないってこと?」
源次郎としては、当然の質問である。
それを言って、殴られたのだから。

「やっぱりおかしいのかなぁ?」
富は、自分の言っていることにもどかしさを感じているのだろう。
それでも、旨く説明が出来ないようなのだ。

「支配人は、お2人のこと、ご存知なのですよね。まぁ、確かに、あまりいいようには感じておられないようには思いましたけれど。」
源次郎は、昼前に富の伝言を伝えたときの支配人の態度を思い出していた。

「兄貴は、俺がサキに近づいたときから、ありゃダメだからな、とは言ってたんだ。」
「どうしてなのですか?」
「サキにはいろいろと事情があってな。」
「でも、どんなカップルにも多少の事情はありますよ。そうそう、両方ともが丸く収まることって、案外少ないのじゃないですか?」
「やはり、若いってことはいいよな。何にでも一直線でいける。俺も、昔はそうだったが、最近じゃ、変な理屈が頭の中にあってさ、邪魔をするんだ。」
「富さんだって、十分若いですよ。・・・・でも、支配人がダメだって言う理由があるのでしょう?それが分らないことには、対処の方法はありませんよね。」
「まぁ、そいつは分っているにはいるんだが・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、これは聞いていても埒が明かないと思った。

富は、ふらりと立ち上がった。
「俺、帰る。・・・・・・・」
「もうすぐサキさんの舞台が終わりますけれど、それまで待たないのですか?」
源次郎は、当然、サキの顔を見てから帰るのだろうと思っていた。
場所や段取りは分らないが、今夜、全ての舞台が終わった後、2人は会う筈なのだ。そして、その後どうするのかは、言わないでも分る。
そこまでの間柄であるのに、何も言わずに帰るのが不思議な気がするのだ。

「サキに、俺は帰った。夜は約束の時間に行くから、と伝えてくれ。」
富は、そう言って、表に出て行った。

確かに、富とサキ。似合いのカップルかと言われれば、そうだとは言い辛い。
だが、富も、本人の話によると、以前は結婚していたらしいし、サキも、年恰好から想像すれば、そんな富を非難できる立場にはないだろうと思える。
2人とも決して上品だとは言えないし、かといって、美男美女にも程遠い。
だが、何よりも優先されるべきは、現在の2人の距離なのではないのか、と源次郎は思う。

最初は、単なる性欲上にだけ繋がっているような言い方を互いにしていたが、ああして2人が並ぶと、不思議なほど違和感がない。
言っていることも、その態度も、決して常識があるタイプではないが、2人にだけ通じ合う何かがその間を流れているような感じがするのだ。

そういう意味においては、互いに偽らないで遣り合える数少ない関係なのではないのか、そんな風に思えてくる。
ひょっとすると、自分達は意識してはいないものの、美由紀との間も、この辺りにいる人達からは、今の富とサキと同じように見えているのかもしれない。


「あれ?・・・・富ちゃんはどこ?」
やはり、サキは舞台を降りたその足でやってきたようだった。
素足のままである。

「ついさっき、帰るとおっしゃって。あっ、それから、今夜は約束の時間に行くからと、サキさんに伝えてくれと言われました。」
源次郎は、富に言われたままを伝える。
「・・・・他に、何か言ってませんでした?」
サキは、つま先立ちのままで訊いて来る。
「・・・・・・・・・」
源次郎は、言葉に詰まる。
支配人との話はするべきではないだろうと思う。
だが、それを伏せるとなると、後は何もない。
まさか、富が支配人に顎を殴られたとは口が裂けても言えなかった。

「あ〜あ、ミッキーさんが羨ましいわ。」
サキがポツリと呟いた。
源次郎は、聞こえない振りをした。


(つづく)



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