第2話 夢は屯(たむろ)する (その129)
「おっと!・・・こうしてはいられない。フィナーレの準備しなくっちゃ。」
サキは、ちらりと壁に架かっている時計を見上げて、そう言った。
「富ちゃん、折角来たんだし・・・・・・ねっ!分ってるでしょう?いつものところで・・。」
富に向いて、腰をグルンと回して見せてから、
「お兄さん、では、頑張ってきますので。・・・で、札幌の舞台、足らないようでしたらいつでも参りますので、是非お声を掛けてくださいまし。」
と源次郎には、これまた別の意味の品を作ってみせてから、慌しく楽屋の方へ走っていく。
「ちぃ!・・・サキの奴、勝手なことばかり抜かしおって。」
富は、軽く舌打ちをする。
「でも、良い人じゃないですか。何もかも開けっぴろげで、憎めない人ですよ。」
源次郎はそう応じる。
だが、決して皮肉を言っているのでもない。
確かに、最初は、何と蓮っ葉な女だと思ったが、こういう世界では、逆に付き合いやすいのかもしれないと思う。
この舞台には他にもいろんなストリッパーが出ているが、源次郎などには、まともには接してくれない。
何か、宇宙人でも見るかのごとく、遠巻きにして、なにやらヒソヒソと話している。
そのくせ、美由紀がいると、人が変わったかのように、丁寧に笑いかけてくる。
その点、彼女は、最初からあの通りだった。
普通の社会からすれば、明らかに下品な女の部類だろう。
姿かたちもそうだし、話す内容もそのレベルである。
だが、慣れれば、シンプルに思ったこと、感じたことを計算無しに言ってくるのだから、これほど楽な相手はいない。
「よく話すのかい?」
富が訊く。
「サキさんとですか?・・・いえ、そんなには。でも、彼女、ご自分の舞台が終わると、さっきと同じように、ふらりとここへ。それで、何度かお話をしましたが、それだけですよ。」
源次郎は在りのままを言う。
「それより、サキさんとはもう長いのですか?」
富に、最初の話に戻されるのを嫌って、源次郎が話を逸らす。
「なんだ。知ってるのか?それもサキが言ったのか?」
富は、照れくさそうに答える。
「はい、とても富さんのことを大切に思われているようでした。」
「あいつ、余計なことまで喋りやがって。」
「良いじゃないですか、女に惚れられるのは、男の勲章でしょう?」
源次郎は、自分でそう言いながら、
「これって、親爺の口癖なんですがね。」
と付け加える。
「まあな。・・・・・相手にもよるんだが・・・」
富は、サキが出て行った楽屋へ続くドアを遠い目で見ているようだった。
源次郎は、「美由紀に惚れられているのだろうか?」と改めて思ったりする。
(つづく)
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