第2話 夢は屯(たむろ)する (その125)
「ええ・・・・でも、これは支配人から言われたんです。」
源次郎は、意地になって言う。
「おいおい、ほんとかよぅ?・・・・佐崎美由紀だぜ?」
富は信じられん、という顔をしている。
源次郎は、そりゃ無理も無いか、と思ったりもする。
自分ですら、最初は支配人が冗談を言ってるのと思ったのだから。
「本当に、兄貴がそうしろって言ったのか?・・・・・そんな子を探してるってなことは言ってなかったんだがなぁ。・・・・それじゃ、舞台での面接は無し?」
「ええ、最初は支配人もそのようなことを言われてましたけれど・・・・」
「どこで、どう間違ったのかなぁ・・・。俺には、舞台で女とやれる若くって活きの良いのを探してくれって・・。だからさ、最初は俺でも善いかって訊いたぐらいだ。・・・もちろん、馬鹿!の一言でお仕舞いだったけど・・・。」
「それでなんですね。あの食堂で僕に声を掛けてくれたのは。」
「おっ!そうだ。だから、飯はしっかり食っとけって言ったろう?若いうちだったら、飯さえちゃんと食ってりゃ、後は女の裸を目の前にすりゃ、何とかなるもんだからな。」
源次郎は、一昨日の、あの駅前の食堂でのやり取りを思い返していた。
そして、この富が言うとおり、その後、リハを見て、その何とかになってしまったことも思い出す。
今となっては、クソ食らえ!と思うのだが、そうした経過があっての美由紀との出会いである。
「俺もよくは知らねぇんだが、このお嬢、相当に我侭らしいな。」
「そんなことはありませんよ。」
源次郎は即座に富の言葉を否定する。
「そうかい?・・・・兄貴は、売れっ子だから仕方が無い部分もあるんだが、相当に筋金が入った我侭だと言ってたぜ。よくやるぜ。どうせ、顎で使われてるんだろ?」
富は、可哀想な子犬を見るような目つきをする。
「いえ、舞台のことと、それ以外のことは、ちゃんと区分される方ですし・・・・。」
源次郎は、美由紀を擁護するのに躍起になっている。
「あはははは・・・・・・。ご主人様への忠誠心か?・・・俺には、無理しなくてもいいんだぜ。辛かったら、辛いって言いなよ。・・・俺が最初に口を利いた責任もあるしな。なんだったら、兄貴に交渉してやってもいいぜ。」
富は、最初のときと何ら変わらない。男気はあるが、余分なことは考えないタイプらしい。
「いえ、そんなことはありませんから。美由紀さんともうまくやれてますし。このままで結構です。」
源次郎は、この富に、余計なお節介をして欲しくはなかったのだ。
(つづく)
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