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第2話 夢は屯(たむろ)する (その1249)
源次郎は、その場でじっとふたりの後姿を見ているだけになる。
あそこまで言われては、ふたりを見送りに出る訳にも行かないだろう。
で、ふたりの姿が見えなくなってから、まるで腰が抜けたようにへなへなと座り込む。

(どうして、こんな風になるんだろう?)
源次郎は、そう思いつつもすぐ傍の窓から下を見る。
どうやら、そこが店の前のように思えたからだ。

思ったとおりだった。
程なくして、美由紀と愛子が店から出てくるのが見えた。
で、源次郎は思わずその顔を引っ込めるようにする。
万が一美由紀が上を見上げたら、その視線とぶつかりそうに思えたからだ。
「ありがとうございました」というシェフの声が聞こえてくる。
そして、美由紀のハイヒールの靴音が響いた。

「ふう~・・・。」
源次郎は、また改めて窓の外を見る。
もちろん、ふたりの姿はもうどこにも見えなかった。
きっと、今頃は商店街を歩いているのだろう。


源次郎は、ようやく紅茶に手を付ける。
砂糖を入れ、それをスプーンで軽く掻き混ぜる。
そして、それを一口飲んでみる。

(うん、これも、普通の紅茶だ・・。)
源次郎はそう思った。
最初、ロシア料理と聞いて少しは腰が引ける思いがしたが、こうして食べてみれば、決して口に合わないものではない。
それこそ、そこそこ美味しかった。

(それでも・・・、やっぱり、これを毎日は食べられんだろうな・・・。)
とも思う。やはり、日本人なのだろう。
和食は毎日食べられても、こうした料理はたまで良いと思う。


と、そこへ、シェフが階段を上がってくる。
そして、まっすぐに源次郎のところへとやってくる。
源次郎のトレーを回収に来たのだろう。

「ご馳走様でした。それに、厄介なことをお願いしたりして・・・。」
源次郎がそう言う。
食事の礼と、それにここを引き続いて使わせてもらうこととなったことへの侘びを言ったつもりだった。

「ン? ヤッカイ?」
シェフがそう訊き返してくる。どうやら、その意味が分からなかったらしい。

「ああ・・・、ここを使わせてもらいたいなんて・・・。」
「ああ、そういうことで? い、いえ、とんでもございません。ご遠慮なく・・・。」
その言葉を聞いて、源次郎もほっとする。
やはり、日本語ってのは難解な言語だと改めて思う。

「よろしければ、お煙草をどうぞ・・・。」
シェフがテーブルの上に灰皿を乗せてくれる。
源次郎が煙草を吸うだろうと思ってのことのようだった。


(つづく)




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