第2話 夢は屯(たむろ)する (その1239)
「サーシャ、自信を喪失しかけてたみたいで・・・。」
愛子がふと手を止めるようにして言う。
「ん? どうして? こんなに美味しいのに?」
美由紀は、相変わらず食べながらお喋りに興じる。
「“僕の料理、日本の人の口には合わないのか?”って・・・。」
「そ、そんな事はないわよ。美味しいわよ。」
「そ、そうなんですけれどね・・・。でも、お店はいつも閑古鳥・・・。
で、サーシャ、お店を閉めたいって・・・、奥さんに言ったらしいんです。
もともと、奥さんの勧めでこのお店をやることにしたようで・・・。」
「あらあら・・・。それで?」
「で、奥さんが私に“どうしたら日本のお客さんに来てもらえるんだろう?”って・・・。
まぁ、もちろん、サーシャの通訳を通してなんですが・・・。」
「そ、それで?」
「それで、初めて、このお店に案内されたんです。
私も、そのお店を知らなければ、何とも言いようがなかったですしね・・・。
それに・・・。」
「ん?」
「私、ロシア料理って食べたことがなかったですしね・・・。」
「あはっ! そ、そうだったの? だ、だったら・・・、それも、そうね・・・。」
美由紀は、何かを付け加えようとして、それを飲み込んだようだった。
「で、ここで、生まれて初めてのロシア料理を食べさせてもらったんです。
最初はおっかなびっくりだっんですが・・・、食べてみると、どれもとても美味しくて・・・。
これだったら、きっと日本人の口にも合うだろうって、そう思ったんです。」
「うんうん、それは分かるわよ。私も、そう思うもの。」
「で、気が付いたんですよね。」
「ん? 何を?」
「このお店、前を通っただけでは、何のお店なのか分からない。
確かに看板は掛かっているんですけど、それがロシア語でしょう?
日本人には分かりませんし・・・。
それに、表から厨房に立っているサーシャの姿が見えるんですけど、彼の容姿って、背が高くって見るからに外国人って感じで・・・。
私もそうでしたけれど・・・、日本人って、外国の人が苦手でしょう?」
「う、う~ん・・・、ねぇ、源ちゃんもそうなの?」
突然、美由紀が源次郎に話の先を振ってくる。
「ええっっ! ぼ、僕ですか?」
源次郎は急な展開に椅子の上で尻が浮き上がるような気分だった。
折角、食べることに何とか集中出来かけていたのにだ。
「そ、そうよ。源ちゃんも、外国人って苦手?」
「う、うっ~ん・・・、ど、どうなんでしょう? 得意では無いと思いますけれど・・・。」
源次郎は、出来るだけ話の腰を折らないようにと言葉を選んだ。
別に、外国人が苦手かどうかなどと考えたことはなかった。
それは、今までにそうした場面に殆ど出くわしていないからだ。
大阪にいたときには、在日朝鮮人と呼ばれる人達との接触もあったが、彼らが日本語を話していたから、彼らを外国人と意識もしていなかった。
(つづく)
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