第2話 夢は屯(たむろ)する (その123)
「では、改めて、ご検討願えますか?その他の条件等も、十二分にそれなりのご配慮をさせていただいております。例えばですね・・・・・」
笠野が、契約条件の説明をしようとする。
「すみません。今から、やらなければならないことがありますので・・・」
源次郎は、嘘をついた。
追い返したいのだ。
笠野は、慌てた。
源次郎を怒らせては・・・・と思ったようである。
「それは失礼を致しました。お忙しいところ。・・・・では、よろしくお願いいたします。」
そう言って、笠野はまた汗をかきながら、表に出て行った。
源次郎の手が煙草に伸びる。
そう言えば、以前から吸っていたショートホープの時よりも数が増えている。
日に数本しか吸わなかったのに、今では、10本はくだらない。
いつも身近に大量にある、それも理由のひとつだろうとは思う。
自分で買わなくても、「これを吸ってもいいよ」と美由紀に言われているから、それに甘えている部分も当然にある。
だが、それだけが理由ではないような気もするのだ。
最初に口にした時、何と不味い煙草なのだ、と思った。
なのに、今は、平気でこれを吸っている。
不味いとも思わない。吸うことに違和感も無い。
何故なのだ?
源次郎は、自分でもそれが分らない。
改めて、パッケージを見る。
アルファベットのような文字が並んでいるのだが、読めはしない。
英語のような気もするが、少し違うような気もする。
確かに珍しい煙草だと思う。
今までに見たことも無かったし、このような煙草があることすら知らなかった。
だが、美由紀が吸っていて、そしてあの小さな雑貨屋で売っているのだ。
しかも、カートン単位で。煙草専門店でもないのにだ。
それも不思議な感じがする。
美由紀以外にも買う人間がいるのだろうか?
この小樽では結構吸う人間がいるということなのだろうか?
そう言えば、ここの清掃人のおばさんも同じものを吸っていた。
だが・・・・・まてよ。
あの清掃人のおばさんは、この煙草を吸う人間に異常なほどの関心を寄せていた。
「同じ煙草を吸う人間を知っている」と言っただけで、顔色が変わった。
あのときは、直感的に「美由紀の名前を出さない方が・・」と考えたが、こうなると何らかの関わりがあるような気さえしてくる。
あれ以来、あのおばさんとは会っていないが、もしかすると、美由紀の知り合いなのか?
いやいや、美由紀の顔がはっきりと出ているあのポスターを見ても、何の反応もしなかった。
と、言うことは、繋がりはないのか?
源次郎は、誰もいない事務所で、そんなことを考えていた。
(つづく)
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