第2話 夢は屯(たむろ)する (その120)
「私もなの・・・・。でも、この発表会に行くと、キヨちゃんに会えるような気がして。」
美由紀も、そう言って応じる。
源次郎は、その渡されたパンフレットをただ黙って見ていた。
美由紀から聞いた範囲の知識だけで、何ら口の挟めるような気はしないのだ。
「源ちゃんにも、是非行って欲しいの。嫌?」
美由紀がこの話題で初めて源次郎に話を向けてくる。
「僕のような何にも知らない人間が行っても良いのでしたら、是非に。」
源次郎は、その公演場所が札幌市内であることを確認したうえで、そう答える。
それに、美由紀とこのマスターの関係から考えれば、例え行くつもりが無くともそう答えるのが筋だろうと思う。
「ホント!じゃあ、美由紀と一緒に行ってくれる?」
「ええ。喜んで。」
源次郎は、美由紀がわざとはしゃいで見せているのが何となく分った。
それに従っておこうと思う。
「じゃあ、そろそろ・・・」
美由紀がそう言って席を立つ。
源次郎も、美由紀に合わせた飲み方をしていたから、同時に立てる。
美由紀が財布を取り出した。
それを見たマスターが、
「今日だけは、奢らせてもらうよ。キヨに成り代わって。」
と、一枚の写真を指差した。
「じゃあ、遠慮なく、ご馳走になっておきます。」
美由紀はそう言って、財布をハンドバックに戻した。
源次郎は、化粧ケースを持つようにしながら、その指差された写真を見つめていた。
「あれが、キヨちゃんなんだな」と思った。
亡くなったのは中学生の頃だと美由紀から聞いていたが、その写真はもう少し小さい頃、小学校の3〜4年生って時のものだと感じる。
笑顔がとても可愛い少女である。
「いつも、あの発表会のチケット、あんなに買われるのですか?」
源次郎は、店を出て、歩き始めてから美由紀に尋ねる。
「そうね、・・・でも、3年前からだよ。それまでは、・・・・」
美由紀は、そこまてで言葉を濁してしまった。
源次郎もそれを追う事はしなかった。
昨日よりは少し遅れて劇場に入った。
それでも、約束の10時半にはなっていない。
皆が「おはようございます」と挨拶をしてくれる。
もちろん、佐崎美由紀に対してである。
ところが、唯一、源次郎に向けての挨拶があった。
それを感じて振り返ると、そこには、あの笠野の姿があった。
(つづく)
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