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第2話 夢は屯(たむろ)する (その1199)
(ん?)
源次郎は自分でも驚くべきことに突き当たった。
そう、今のこの劇場での公演の日程を明確には意識していなかったことに改めて気が付いたのだ。
で、壁に貼ってあるポスターの前に行く。
そこには、公演期間が明記されている筈だったからだ。

「ええっと・・・。」
源次郎は目でその日程を追う。
『昭和45年6月1日(月)から6月14日(日)』とあった。

「ああっっ・・・、そ、そっか、6月になってるんだ・・・。」
源次郎は、如何に自分が世間からずれているかを思い知る。


そう言えば、警察に逮捕されたのが昨年の12月。
それが原因で、3月には退学処分が下された。
大学側も迷ったのかもしれない。
全学連の運動家として逮捕されたものの、源次郎は所謂使い走り。
運動の中枢にいたものでもないし、破戒工作などの過激な行動には参加をしていない。
デモ行進の際に、たまたま隊列の端にいて、警察の部隊とぶつかる最前線の位置に追いやられただけだ。
それで、公務執行妨害という罪に問われたのだ。

本来ならば、数ヶ月の停学処分が妥当だったのかもしれない。
それでも、国家権力を総動員してこの学生運動を鎮圧しようとしていた社会背景から、大学側も今までに無かった厳しい処分をせざるを得なかったようだ。
その結果としての退学処分である。

それから源次郎の放浪が始まった。
いや、そうしないではいられないところへと追いやられていた。
実家からは送金を止められ、「帰って来い」の連呼。
そう、完全な兵糧攻めである。

で、とうとう東京にいられなくなって、友達を頼ってこの小樽にやって来た。
なけなしの現金を叩いてまでだ。
小樽に来れば、その友達が何とかしてくれるだろうと甘いことを考えたのだ。
だが、その友達も実家には帰っていなかった。
源次郎と同じで、またどこか別のところを漂流しているに違いなかった。
もう頼るところはどこにもなかった。

こうした状況に追いやられると、人間、今日が何月の何日であるかなどには気が回らなくなるものらしい。
今日の飯は? 寝るところは? そうしたことばかりに思考が向くのだ。

美由紀と行動を共にするようになってからも、源次郎にはどこか現実感が伴わない漠然とした虚脱感があった。
そう、「なるようにしかならない・・・」「もう、どうにでもして・・・」という感じだ。
だからなのか、今日が何月何日の何曜日なのかを意識していなかった。


「こ、これも書いておかなくっちゃ・・・。」
源次郎は、そのポスターにあった日程をそのまま手帳に書き入れる。


(つづく)




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