ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その118)
昨日と同じ道順である。

だが、源次郎は迷っていた。
道順ではない。
雑貨屋のおばあさんのことである。

こちらから言うべきか、それとも立ち寄ってからの方がいいのか。

案の定、雑貨屋の前で、美由紀は立ち止まった。
「今日は、何を?」
源次郎は、てっきり何かを買って来いと言われるのだと思っていた。
だが、美由紀は、源次郎の予想を裏切る行動に出る。

一旦は、道を挟んだ場所で昨日と同じように立ち止まった。
ところが、今日は、自らその道を渡ろうとするのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、言葉がない。止めるわけにも行かない。

そうこうしているうちに、車の流れが途切れた瞬間を見計らったようにして、美由紀が道を渡る。
源次郎も慌てて後に続く。

「おばあちゃん、元気だった?」
美由紀は、おばあさんの顔を見るなり、そう言った。
「ああ、美貴ちゃんかい。綺麗になったなあ。」
眼鏡をかけて新聞を読んでいたおばあさんが、顔を上げて言う。

なんだ!やはり、知り合いだったのか。
源次郎は、予想していた通りの事実に、多少ガッカリする。
もう少し、何らかのドラマがありそうな気がする部分もあったのだ。

「煙草貰うわ。いつもの奴。」
美由紀は、淡々と言う。
「はいよ。少し待ってな。・・・」
おばあさんは、そう言って奥へ入った。
そして、1分もしないうちに戻ってきた。
手には、2カートンの煙草と、なにやら白い封筒を持っている。
「これは、預かりもんじゃから。」
その白い封筒を美由紀に手渡す。

その封筒には、何も書かれていない。
つまり、誰から誰へとも分らないようになっている。
それでも、美由紀は誰からの封筒なのかが分っているようだ。
煙草と一緒に受け取って、煙草は源次郎にそのまま手渡しする。
「これ、持ってて。」
源次郎は、自分の鞄にそれを入れる。

美由紀は、白い封筒を開けようともせず、そのまま自分のハンドバックにそっと入れた。
「美貴ちゃん、この人は、あんたの良い人かい?」
おばあさんは、源次郎を指して、美由紀にそう尋ねた。
またまた、同じことを訊いている。このお婆さんボケているのかも知れん、と源次郎は思った。

「うん、美貴の良い人だよ。・・・・見る目ある?」
それを聞いたおばあさんは、
「そうかい、そうかい。・・・・そりゃ、良かった。・・・・」
とだけ答える。

「それじゃあ行くね。おばあちゃんも、元気でね。」
美由紀は、千円札を3枚おばあさんの手に握らせて、そう言った。
もう、暫くは来ない、という意味なのか?
源次郎は、なんとなく美由紀が冷たく見えた。
どうして、そのような態度をとるのかが理解できなかった。

美由紀の後から店を出て、その扉を閉めようとしたとき、おばあさんの手が源次郎の手を握ってきた。
「連れてきてくれて有難うございました。美貴をお願いします。」
その顔は、昨日までの遠くを見るようなものではなく、源次郎に何かを懇願するようなものになっていた。

「大丈夫ですよ。美由紀さんはしっかりとした女性ですから。」
源次郎は、請われている意味も分らないままだが、そのような言葉を残して扉を閉めた。

美由紀を追って、道路の向かい側に戻ったとき、何かが気になってふと振り返った。
扉の内側で、拝むような仕草をしているおばあさんの姿が、源次郎の瞼に焼きついた。


(つづく)



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。