第2話 夢は屯(たむろ)する (その1179)
「有り難味・・・か・・。」
源次郎は、美由紀の言い残した言葉がやけに印象に残った。
ふと我に帰って、美由紀の後を追うようにして劇場へと入ろうとした源次郎である。
で、そのドアノブに手を掛けようとして、どうしてか、ある場面を思い出す。
それは、ここに初めて来た時のことだった。
あの駅前の食堂で出会った富という大男に、「男でなければ出来ない仕事を紹介してやる」と言われて連れて来られたのだ。
「ここで暫く待っててくれ」と言われて待たされた場面をである。
今では、このドアを開けるのに何の躊躇いも無い。
こうして握ったドアノブをちょっとだけ捻りさえすれば、そのまま押して入れる。
だが、あの時は、まさに「ええっ! どうしてストリップ劇場なんだ?!」という驚きと躊躇いの渦中にいた。
そのドアの向こうに何があるのか、どんなことが待っているのか、それさえも分ってはいなかった。
(このまま、逃げ出そうか?)
正直、そう思う一瞬もあったように記憶している。
ひとつには、連れて来てくれた富という男の印象がもうひとつだったこともある。
そう、タイプは明らかに違うのだろうが、大阪で出会ったことのある俗に言う「ヤクザ屋さん」に近い凄みがあったからだ。
まさにプロレスでも通用しそうな雰囲気だった。
それだけに、「逃げ出したい」と思う反面で「そうしたら後が怖い」という複雑な心境だった。
それこそ、関西弁で言えば、「ビビっている」状況だった。
「ションベン、チビリそう」なほどだった。
それなのに・・・。
それなのに、今は、こうしてそのストリップショーの看板スターである佐崎美由紀のマネージャーという立場にいる。
そして、このドアを押し開けるのに何の迷いもない。
あの日には、到底想像すら出来なかった状況である。
「源ちゃん、拗ねてないで・・・。」
そのドアが内側から開けられて、そこから美由紀が顔を覗かせてくる。
源次郎がなかなか入ってこないのを自分の所為だと思ったようだった。
「い、いえ・・・、そんな、拗ねてるだなんて・・・。」
源次郎は、美由紀の顔をまともには見られなかった。
あの時には富という大男に縋ってきたのが、今ではその役をこの美由紀が背負ってくれている。
そうした思いが交錯したからだった。
「で、笠野さんが源ちゃんに会いたいって来てるわよ。そのつもりで入ってきてね。」
美由紀が小声でそう告げてくる。
「ええっ! こ、こんなに早くですか?」
源次郎は、わざとらしく時計を見た。
(つづく)
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