第2話 夢は屯(たむろ)する (その117)
昨日と同様に軽い朝食をとってから、2人で風呂に入った。
さすがに、美由紀ももう悪戯をするようなことはなかったが、2人とも黙ったなりで身体を洗った。
「洗髪するんでしょう?」
源次郎は、昨日の朝に聞かされていたことをちゃんと覚えていた。
「うん」
美由紀は短くだけ答える。
源次郎は労るようにして、美由紀の頭髪を洗ってやる。
もともと小柄な美由紀の身体が、しゃがみこんで湯を掛けられる姿を見ていると、より一層小さく感じる。
髪も洗い終わって、2人は向かい合うようにして湯船に浸かった。
源次郎は、改めて美由紀の顔をまじまじと見、美由紀も多少は恥らいながらも源次郎の顔をにこやかに眺めている。
「あっ!・・・・・源ちゃん、ゴメンナサイ。」
美由紀が突然のようにそう言う。
「えっ!・・・何が?」
源次郎は、謝られる内容が分らない。
「首のところに、キスマーク付けちゃっている。」
美由紀は、自分の体でその位置を示す。
鏡を見るようにして、源次郎は言われた部分に指を当てに行く。
「あつっ!・・・」
確かに、その部分に指を当てると少し痛む。
「目立ちます?」
源次郎が訊ねる。
「・・・・・でも、良いじゃない、男なんだし。」
美由紀は、申し訳なさそうに言うが、目は笑っている。
「・・・・・う〜ん、僕は構いませんが・・・・変に誤解されませんか?」
源次郎は、第三者的に答える。
「・・・・・だって、誤解じゃないもん!」
美由紀は、少し膨れたような顔をする。
どうやら、名実ともに胸を張って見せたいようである。
風呂から上がって、また、美由紀の身体にあの乳液をしっかりと塗った。
そうした過程の中で、源次郎は自分と同じような痕跡が残されていないかは十分注意して見た。
自分は兎も角として、美由紀の身体は「商品」なのである。
いささかでも、傷があってはならない。
それだけは、昨夜の夢中になった時間においても、源次郎の頭のどこかしらにはちゃんとあったようである。
全身に渡って入念にチェックしたが、どこにもそのような跡もなく、源次郎は内心胸を撫で下ろしていた。
昨日よりさらに10分、早くホテルを出られた。
別に、急ぐ必要もなかったが、美由紀があのスワンに行くことを希望していたから、そこでの時間を少しでも確保してやりたかったのである。
そして、もうひとつは、まだ美由紀には言っていなかったが、あの雑貨屋のお婆さんが「明日も寄って欲しい」と伝えてくれと言っていたことが気にかかっているのだ。
「そう言ったら、美由紀さんはどうするのだろう?」
その答えも欲しかったのである。
(つづく)
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