第2話 夢は屯(たむろ)する (その1169)
「そ、そうよ。ミッキーが仕入先に指定していたお店に持ってきてもらってるの。私、コーヒーの良し悪しが分からないから・・・。」
ママは、源次郎の顔を斜めに見るようにして言ってくる。
「でも、お陰でお客さんには好評なのよ。」
「これだけ美味しいとね・・・、それはそうなるだろうと・・・。」
源次郎はお世辞のつもりもあってそう言った。
事実、源次郎もコーヒーの味が分かる方ではない。
「ううん、そうじゃないの。うちのお客さんで、本当にコーヒーの味が分かる人って数えるほどしかいないんだし・・・。」
「ん? じゃあ?」
源次郎は、ママが言う意味が分からなかった。
「うちはオカマバーよ。そして、ここは港町小樽よ。お客さんの半分は漁師さんなどの漁業関係なの。」
「ええっ! 漁師さん・・・。そ、そうなんですか・・・。」
源次郎は意外だった。
オカマバーと漁師。それがどうしても結びつかないからだ。
「漁師さんって、朝早いでしょう?」
「あああ・・・、そ、そうですねぇ・・・。」
それでも、ママの話に付き合わざるを得ない源次郎だ。
「でね、そろそろお仕事よっていう時間にこのコーヒーとサンドを出すの。」
「そ、それって、何時ごろです?」
「午前1時から2時ぐらい。」
「えっ! そ、そんな時間から仕事?」
「そ、そうよ。もちろん、乗る舟によってそれぞれ違うんだけどね。
で、そのまま港に向かって漁に出る人が多いのかな?
だから、うちのお店は、雨の日は大盛況なの。」
「ん?」
「だってね、雨の日って、舟を出さないことが多いのよ。小雨だったらそうでもないんだけれど、大雨だったりそれに風が強ければ漁には出られないしね。
で、朝まで・・・ってことになって・・・。」
「ああ・・・、な、なるほど・・・。」
まさに、「所変われば品変わる」である。
源次郎は、改めてここが小樽なのだということを実感する。大阪でもなければ東京でもない。
「それにしても、ミッキー、よく訊ねて来てくれたわよね。
ミッキーが東劇場に来るってのは、もう大分前に聞いていたの。
でも、もううちに来てくれるようなことはないって思ってたから・・・。
だから、最初に顔を見たときは、それこそ心臓が止まりそうだったわ。」
一区切り付いたと思ったのか、ママは、再び美由紀に話しかける。
「ま、まさか・・・。で、でも・・・、私も、どうしてか、ママの顔を見るのが辛くって・・・。
だから、本当は、ここには来ないつもりだったの。」
美由紀が残ったコーヒーを飲み干すようにしてからそう言う。
「そ、そうでしょう? その気持、分かるもの・・・。」
「でも、この人が・・・。」
美由紀は、そう言って源次郎の方を向いた。
(つづく)
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