第2話 夢は屯(たむろ)する (その116)
源次郎の身体に、昨夜のまどろっこしいほどの快感が甦りそうになる。
とっさに、布団の上から、美由紀の頭を押さえてしまう。
そして、反射的に「まずい!」と思った。
源次郎の下半身は身勝手な奴である。
昨夜、あれだけ好きなように遊んでおきながら、またまた、遊びに興じようとしている。
そのやんちゃな素振りに、美由紀も嬉しそうにじゃれてくる。
源次郎は、何とか踏み留まろうとする。
男としては、理想的な朝なのかもしれないが、そうはしていられない。
美由紀にブレーキをかけると言うより、自分自身に歯止めを掛けるために、敢えて腰を大きく引く。
「ああ〜ん、逃げちゃ駄目・・・・」
美由紀は、とことん女になっている。
源次郎は、ベッドから滑り降りた。
美由紀を、ひとりの女から佐崎美由紀に戻さなければならない。
そのためには、自分が男から一旦は離脱する必要がある。
そう思ったのだ。
ベッドから降りて、今度は、布団の上から美由紀の身体を押さえ込むように覆いかぶさる。
体重ののかなりの部分を載せている。
「・・・源ちゃん・・・重たい・・・」
布団の中から、美由紀が抵抗する声が聞こえる。
「駄目です。・・・・舞台の準備があるでしょう?・・・・遊ぶ時間はありません。」
「・・・・・・わかった・・・・わかりましたよ。」
美由紀も、源次郎の意思が分ったようである。
そうしておいて、源次郎はバスルームへと急いだ。
そして、昨日と同じように、湯船に美由紀が好むような温度で湯を張り始める。
それから、先ほど床から回収してきた衣類の山から、自分のパンツだけを取り出して、履く。
あまりにも不恰好だと思うのと、美由紀に対する配慮から、取り敢えずは下半身だけはカバーする。
クローゼットから新たなバスローブを取り出して、それを持ってベッドルームへと取って返す。
「今、お風呂入れていますから、これだけは羽織っておいてください。」
そう言って、まだ布団の中に潜っていた美由紀の枕元にそれを置く。
「朝食は、昨日と同じで良いのですか?・・・・今から、電話しますけれど。」
源次郎は、美由紀の食事のとり方のペースも何となく分ってきている。
「うん、同じでいい。・・・・その代わり、後で、スワンに寄って。・・・いいでしょう?」
美由紀が次第に落ち着いた会話をするようになっている。
「ええ、それで構いませんよ。じゃあ、そろそろ起きてきてください。」
それだけを言って、源次郎はリビングに戻る。
そして、フロントへ朝食の準備を依頼する。
バスルームから響いてくる湯の音に気を配りながら、源次郎は煙草の所在を探している。
そうだ!昨夜着ていた上着のポケット・・・。
ソファの上にある衣類の山から、上着を探し出す。
ポケットから煙草を取り出す。
箱の中を探ると、もう1本しか残っていなかった。
その最後の1本を咥えてマッチで火をつける。
その煙草の変にへしゃげた姿が、昨日までの自分とダブって見えた。
先端から立ち昇る薄紫の煙を見ていて、
「今日から、また新たな煙草の封を切ることになりそうだ。」
と源次郎は思った。
(つづく)
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