第2話 夢は屯(たむろ)する (その1149)
「・・・・・・・。」
美由紀が黙って源次郎の手を握り返してくる。
「どうされます? このまま楽屋入りするのもどうかなと思いますが・・・。」
源次郎が商店街の通りに出るところで立ち止まるようにして言う。
こんな顔の美由紀を他人に見せたくはなかったからだ。
時間にもまだ幾分かの余裕があるから、どこかに立ち寄ろうと考えてのことだった。
「う、うん・・・。源ちゃんに任せる・・・。」
美由紀が小さく答えてくる。珍しくしおらしい。
やはり、オヤジさんとのことが相当に堪えているのだろう。
「じゃあ、コーヒーでも飲みに行きますか・・・。」
源次郎は疑問符をつけなかった。
「う、うん・・・。」
美由紀がこれまた素直に頷いてくる。
「じゃあ、駅前まで行きますか? この商店街って、案外と喫茶店というところは少ないみたいですし・・・。」
「駅前?」
「ええ・・・、“スワン”に行っても良いんですが、ちょっと距離もありますし・・・。」
源次郎がさぐりを入れる。
“スワン”とは、ホテルからこの商店街に向かってくる途中にある喫茶店である。
そう、美由紀のかつての親友のお父さんがやっている店だ。
バレエを踊る女の子の写真が一杯に並べられていた。
美由紀に連れて行かれた店である。
「そ、そうねぇ・・・。」
さすがに、美由紀も“スワン”に行くとは言わなかった。
やはり、今は顔を知られていない店の方が良いのだろう。
「この商店街には“鬼ごっこ”という喫茶店があるらしいんですが、場所も分かりませんし・・・。」
源次郎がそう言った。単純に、話の流れに従っただけのつもりでだ。
で、そう言ってしまってから(アイタ!)と思った。
そう言えば、支配人から「ミッキーにはその名前を言うな!」と口止めをされていたのを思い出したのだ。
もちろん、「時既に遅し」「覆水盆に返らず」である。
「ん!? “鬼ごっこ”! ・・・・・・。」
やはりだ。美由紀がその店名に反応する。
「そ、それって・・・、どうして知ってるの?」
美由紀は繋いでいた手を自分の方に引き寄せるようにして言ってくる。いや、問い詰めてくるって言う方が正しいだろう。
「ええっ! ど、どうしてとは?」
源次郎は、自分のミスを取り戻すべく、これからの対応を必死で考えている。
「だから、どうしてその店の名前を源ちゃんが知ってるのかって・・・、そう言うことよ。」
美由紀は、そう言いながらも商店街をアーケードの方に向かって歩いている。
(つづく)
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