第2話 夢は屯(たむろ)する (その1119)
「ん? な、何?」
美由紀が訊いてくる。
「い、いえ、別に・・・。」
源次郎はそう逃げる。
それにしても、美由紀は源次郎の顔の動きやちょっとした言葉の端にでも反応してくるようになった。
それも、日々、その度合いが深まっているように思えてくる。
そう、まるでじっと見つめられているようにだ。
「源ちゃんも煙草吸いたくなった? そう言えば、朝から吸ってないんじゃない?
良いわよ。どこかで吸ってきても・・・。
まぁ、もうすぐ降りなきゃいけなくなるけど・・・。」
美由紀は、源次郎の思いをそう受け止めたようだ。
源次郎は逆のことを考えていたのにだ。
「い、いえ、大丈夫です。」
源次郎はそう言って腕時計を見る。
確かに、あと10分もしないうちに小樽に着くだろう。
そんな時刻になっていた。
「ああ・・・、そ、そうだったんですよねぇ~。」
向いに座っていた女性がそう呟くように言う。
そして、ちょっと淋しそうな顔をする。
「折角、こうして美貴さんといろいろとお話させて頂けるようになりましたのに・・・。」
「そ、そうですねぇ・・・。私も、直子さんに教えて頂くことが多くって、非常に勉強になりました。ありがとうございます。」
美由紀がそう答える。
「こ、こんなこと言ったらご迷惑かもしれませんが・・・。」
女性が、少しの間考えるようにして、改めて美由紀に向かって言う。
「はい? な、何でしょう?」
「美貴さんのご住所、お聞かせ頂く訳には行かないでしょうか?また、お手紙でご相談したいこともありますし・・・。」
「じゅ、住所ですか・・・。」
「駄目でしょうか?」
「いえ、それは構わないのですが・・・、その住所には殆どいませんのでね。
こうして、あちこちに出かけるのが仕事なもので・・・。」
「ああ・・・、そ、そうですか・・・。」
「ああっ! じゃ、じゃあ、こうしましょう。」
美由紀が逆提案をするような言い方をする。何かを思いついたらしい。
「ん?」
女性が、何かを期待するような顔で美由紀の言葉を待っている。
「源ちゃん、源ちゃんの名刺、直子さんにお渡しして。」
美由紀が源次郎の方に視線を移して言う。
「ええっ! ぼ、僕の名刺をです?」
源次郎は、どうしてそうなるのかがまったく分からなかった。
(つづく)
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