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第2話 夢は屯(たむろ)する (その11)
「早速、仕事だ」と言われても、源次郎には何のことやらさっぱり分からない。

当然と言えば当然である。
食堂で出会ったあの大男に「男でなければできない仕事」を紹介してやると言われてここへ来た。
そして、この初老の男を紹介された。「任しとけ」と言われる。
で、最初に「ズボンを脱げ」と言われた。「どうしてだ?」とそれを拒否。
「何にも聞いてないのだったら、まずはこっちを見てな」と舞台のリハを見せられた。
その結果があの体たらくで、今はパンツすら履いてない。

ここまでのどの時点でも、仕事についての説明は一切無い。


初老の男、自称支配人は、会場全体に向って大声をかける。
「おい、ちょっと休憩だ。気を抜かずにちゃんと練習しておけよ。それから、照明、もっと踊り子の動きに合わせろよ。タイミングがずれてるぞ。」
「はい」と誰からとも無く返事が返って来るが、「ふん、口ばっかり達者になりおって・・・」と支配人はぼやく。
そして、源次郎に向って、付いて来いという仕草を見せて、スタスタと楽屋へ入っていく。
源次郎は、付いていくだけである。

事務所に入ると、支配人は人が変わった様ににこやかな笑顔を作る。
「やぁ、ミッキー、いらっしゃい。このたびはお世話をかけちゃって、ほんと申し訳ない。」
手もみをするようにしながら、ミッキーに話しかける。
ミッキーは咥えていた煙草をアルミで出来た灰皿にこすり付けるようにして、
「支配人、駅までの出迎え、あれはどうなったのよ。誰も来やしない。約束が違うじゃない。仕方が無いから、タクシーで来たわよ。はい、これ領収書。」
とご機嫌斜めの様子だ。

支配人は、おもむろに懐から財布を取り出して、千円札を3枚、それと分るように広げてミッキーに渡す。
小樽駅からだったら、そんなにかからないだろうに・・・と源次郎は思う。千円で釣りが来るはずだ。
「申し訳ない、ちょいとバタバタしてたもので。それで、これから宿舎のホテルにご案内しますので、取り敢えずはそちらで一服していてくださいよ。後で、お迎えを差し向けますんで。」
はじめてみる支配人の低姿勢である。
その低姿勢に惑われたのか、それとも受け取った3千円に満足したのか、ミッキーという若い女は、組んだ足の片方をぶらぶらさせて、にっこりと笑ってみせる。
「まぁ、いいか。支配人にゃあ、いろいろと世話にもなったしね。」
ミッキーの目が壁に張ったポスターに釘付けになっているのを源次郎も感じていた。

「ちょっとだけ、お待ちくださいな。今から、お送りしますので。」
支配人は、そう言い残して、通路に出る。
そのときに、源次郎の袖を引張っていく。
「あのな、兄ちゃん、表でタクシー拾って、駅前にあるサンライズホテルまで、あのミッキーを送ってやってくれ。それと、あの子の荷物がホテルに届いているはずだから、それを部屋まで持って上がってやってほしい。これ、車代。」
支配人はそう言って源次郎に千円をくれる。
「領収書は貰ってきて。あっ、それから帰りは歩きなよ。」と付け加えることも忘れない。
しっかりしたおっさんである。

なんだ、仕事って、こうしたことなのか、と源次郎は多寡を括った。


(つづく)




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