第2話 夢は屯(たむろ)する (その109)
「私が、今まで、札幌に出なかったのは、・・・ううん、札幌だけじゃないの、北海道で舞台に上がったのは今回が初めてで、今までは一度も来てないのよ。」
美由紀が、話し始める。
「そうなんですか・・・・・・。」
源次郎は、言われている話のポイントがつかめない。
「お昼にさ、ここで話したとおり、私はこの小樽を出たかったから、よく分からないのに富山に行ったのね。その結果は散々なものだった。あれは、働くなんてものじゃなくて、まるでこき使われるために集められた奴隷集団のようなものだった。
それで、そこを飛び出したの。
そりゃ、探されたわよ。この家にも再三電話がかかってきたらしいから。
でも、とても戻るつもりは無かった。
それで、とにかく、東京へと思って。
東京に行けば、何とかなるんじゃないか、なんて考えたの。
甘いわよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、黙って美由紀の話を聞いている。
「で、東京へ行ってからは、また別な意味で酷いことになったの。たかが16歳の女の子が1人で生きられる場所じゃないよね。
まあ、でも、私にとってラッキーだったのは、踊れるってことだったの。
バレエね。あれをやっていたことが幸いしたの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
源次郎はスワンという喫茶店での写真を思い出していた。
「お金も無くて、泊まるところもないってことは、どうなるかって、男の源ちゃんだったら分るよね。
そう、男に騙されるか、自分で身体を売るかのどちらかなの。
私は、後者を選んだの。
そのときは、まだ女になってなかったから、それがどうなることなのかってよくは分かっていなかったのだと思うの。
でも、食べるためには、生きていくためには、何とかしなくては・・・・という想いだけだった。
それらしき女性が屯しているところへ行って、私も売りたいんだけれど・・って言ったの。
そしたら、ビルの奥にある事務所みたいなところへ連れて行ってくれたの。
その後は、想像付くでしょう?
落ちるところまで落ちたわよ。
薬も打たれたし、昼間は監禁状態で、夜になったら身体を売る生活が続いたわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、美由紀の大人びたところが、そうした経験から来ているのだと初めて理解する。
「で、東京へ行ってから、1年ぐらい経ったときかな。
お客で、勿論、売春のお客よ。
ストリップショーを演出している男と出合ったの。
私を気に入ったらしく、何度か指名で来てくれたわ。
その男が、お前が踊れるんだったら身請けしてやるんだが・・・と言ったの。
踊りって?って訊いたわよ。
そしたら、ストリップなんだから、日舞でも、社交ダンスでも、何でも良いんだが・・・と言うの。
私、バレエは踊れるけど・・と言ったら、その男、その場で踊らせたの。
暫くやってなかったけれど、それでも何とか格好だけはつけられたみたい。
それを見て、その男、私を身請けしてやるって言ったの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、まるで映画の中のストーリーを聞いているような気がする。
「私は、そんなことは口だけのことだと思っていたの。やくざ相手にそこまでやる人はいないもの。
でもね、その男は、どのように交渉したのかは未だに言わないんだけれど、見事に私を身請けしたの。
驚いたわよ。でも、これで地獄から少しでも逃げられるかも、って期待はあったの。」
「その男の人も凄い人なんですね。」
源次郎は、ようやくそれだけが言える。
「うん、そうね。それが、あの支配人なのよ。」
「えっ!・・・・・・・」
源次郎の喉が一気に詰まる。
(つづく)
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