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第2話 夢は屯(たむろ)する (その108)
おばちゃんの顔は真剣そのものである。
なんとしてでも、2人をここに泊まらせたいらしい。

だが、源次郎は、幾らなんでも、それを受けるつもりはない。
この夕食だって、美由紀がどうしても・・と言うから承諾したのだ。
もちろん、今夜だけのつもりである。
だから、いくらおばちゃんに見つめられても、答えられない。
言葉が出ない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・ねっ!・・おばちゃん、だから、言ったでしょう?うちの人は、うんって言わないって。」
少しの間をおいてから、美由紀がそう言う。

おばちゃんは、美由紀と源次郎の顔を交互に見つめて、少し悲しそうな顔になる。

源次郎は、今度は、その美由紀の言葉に、声も出ない。
「うちの人」って・・・・・・・。
それを、言った美由紀にも驚いたし、それを平然と聞いたおばちゃんの感覚にも仰天する。

おばちゃんは、それでも心残りなのか、
「今夜は駄目でも、明日からでも・・・。考えてみてください。お願いします。」
と言って、階下に消えていった。


「うふふふ・・・・。ゴメンね。」
美由紀は、意味ありげな含み笑いをする。
源次郎は、混乱から立ちあがれていない。

「源ちゃんが言いたいことは分かるわよ。でも、今はそうしておいて・・・・。」
美由紀は、両手を合わせる仕草をする。
「それって、おばちゃんを騙していることになりません?」
美由紀にどのような魂胆があるにせよ、源次郎はその片棒を担ぐ嵌めになったことを自覚するしかない。

「あとで・・・、ホテルに帰ってから、その辺の事情は言うから・・・。」
美由紀は、小さな声で、「ここはこのままで・・・」と頼んでくる。
源次郎は、ひとつ貸しをつくったと思う。

美由紀は、ちゃぶ台の上のものを片付けに入る。
ここで手を出したら、また、動かないで・・・というのだろうと源次郎は勝手に思った。
そんな源次郎を前に、美由紀は鼻歌でも歌いだしそうに楽しげに片付けている。
どこまでが本気なのだろう?

このちゃぶ台が空いたら、例の契約の話をしておこう。
源次郎は、そう思った。
ホテルに帰ったら、ここでの一連の「真実」を聞かねばならない。
その前に、心の重しを取り去っておきたいと考える。

持って上がってくるときは2度に分けていたものの、食べ終わった器などは重ねられるから、片付けにはさほどの手間はかからないようだ。
美由紀が1回階下に下りただけで、片付けは終了したようである。
そして、戻ってくるときには、珈琲を作って持って上がってきた。

「源ちゃん、珈琲飲むでしょう?あのスワンのようには美味しく出来ないけれど・・・。」
そう言って、ちゃぶ台のうえに珈琲カップを載せてくる。

「ところで、例の笠野氏の話なんですが・・・」
と源次郎が切り出す。
ちゃぶ台の下に降ろしてあったファイルを再び上に載せて、美由紀に差し出す。
美由紀も、さすがに今度は話を聞くようである。
珈琲カップを少し端に寄せて、ちゃぶ台のところに座ってくる。

美由紀は、一旦は、そのファイルの特定のページだけを開いて見たものの、それだけで再びファイルを閉じて、源次郎の方へ返してくる。
「源ちゃんに任せると言ったのに・・・」
美由紀は、不満そうにほっぺたを膨らませる。

「でも、ですねぇ・・・」
源次郎は、これからの話がきつくなると予想している。


(つづく)



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