第2話 夢は屯(たむろ)する (その107)
暫くすると、また美由紀がお盆を両手で持って階段を上がってくる。
源次郎は、駄目だと言われるのが分っていて、それでもやはり階段のところまで迎えに行ってしまう。
「美由紀さんにそうまでされると、僕はどうしたらいいのか・・・・」
源次郎の本音である。
「だから、言ってるでしょ!ここは、私の、私が育った家。私の好きにさせて。」
美由紀は、本当に楽しそうに言う。
同じようにして、ちゃぶ台の上に料理を並べていく。
家庭料理なのだが、品数が多くって、小さなちゃぶ台の上には置ききれない。
大鉢のものはお盆のままで、畳に降ろしてある。
「はい、準備ができたよ。そこに座って。」
美由紀は、そう言って、茶碗にご飯をよそってくれる。
源次郎が座布団の上に座ったのを確認してから、両手を口の前で合わせて「いただきます」とやる。
「お店もあるのに、こんなにたくさんの料理作ってもらって・・・。ご迷惑じゃないんですか?」
源次郎は、いつも丁寧に対応してくれるあのおばちゃんの姿を思い出す。
「ううん、きっと嬉しくて仕様が無いんだと思うよ。おばちゃんって、そういう人なんだ。」
美由紀は、源次郎が気にしないようにと、敢えてそのように言うのかもしれない。
昨晩の食事もそうだったが、美由紀は良く食べる。
朝と昼は非常に少食なのだが、夕食はどうも違うようだ。
思いっきり、食べることを楽しんでいる風である。
やはり、舞台を控えた時間と、そうでない時間とに、大きな差があるのだろうと思う。
これも美味しい、あれも美味しい、と2人は暫くの間、食卓に専念した。
美由紀は、ご飯も自分でお代わりを入れ、源次郎にも「遠慮しないで」と勧める。
見ている源次郎の方が圧倒されるような感じなのだ。
食事がほぼ終わりかけたときである。
下から、おばちゃんが上がってくる。
忙しい店を気にしながらも、美由紀と源次郎の食べ方の方がもっと気になったようである。
「御口に合いましたでしょうか?」
だが、その答えを聞くまでも無く、ちゃぶ台に乗った器が殆ど空になっているのを見て、嬉しそうである。
「本当に、美味しかったです。何年ぶりかの家庭の味。有難うございます。」
源次郎は、美由紀よりも先に自分が言うべきだろうと思って、深々と頭を下げた。
「ところで、美貴にも言ったんですが、どうしてもお泊りにはなれませんか?」
おばちゃんの言葉に、源次郎がびっくりする。
まさに、目が点になったというのはこのような場合を言うのだろう。
源次郎は、答えようが無いから、美由紀を見て、「どう言えば・・・?」と応援を求める。
美由紀は、ただ、黙って笑っている。
源次郎には、その笑いの意味が分らない。
「そりゃ、ホテルみたいにちゃんとしたことはできませんが、私も一生懸命に努力しますので、考えていただけませんか?この隣の部屋に、お布団並べますし。」
おばちゃんの攻勢は、なおも続いている。
「源ちゃん、どうする?」
美由紀までが、そう問い詰めて来る。
「えっ!・・・・そんな話って、ない約束だったでしょう!」
源次郎は、声にならない叫び声をあげる。
(つづく)
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