ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その1069)
源次郎の視線では、1階部分と2階部分の半分が見える程度だ。
それでも、そこがそこそこ大きな建物であることだけは理解する。
ただ、普通のビルではない。
少なくとも、会社などの事務所が入るいわゆるビジネスビルではない。
源次郎の感覚では、どこかの音楽ホールのような感じだ。


「このまま行ってください。」
しばらくその建物を見上げるようにしていた美由紀が、真正面に向き直ってそう言った。

「あ、はい・・・。」
運転手がバックミラーに視線を走らせてから答えてくる。

(ええっっっ!)
源次郎は声にならない叫びを上げた。
このままでは、何のことだがさっぱりである。

それでも車は静かに動き始める。
エンジンを切っていた訳では無いから、その点は非常にスムーズに行く。

(仕方が無い。)
源次郎はそう思った。
そして、いかにも不恰好なのだが、その座席で身体を捻るようにして遠ざかって行く建物を見ようとした。

「源ちゃんには、これから何度も来て貰うことになるから・・・。」
美由紀がそう言ってくる。
それでも、そこがどういうところなのかについては触れてこない。

「ん?」
それでも、源次郎には心当たりがあった。今の美由紀の一言でだ。
そのうち、車が左折してあの建物は見えなくなった。

「札幌駅に直行でよろしゅうございますね?」
運転手が確認をしてくる。
後部座席の雰囲気を察知してのことのようだ。

「あ、はい・・・。」
美由紀が、今度は即座にそう答えた。


札幌駅に着いたのは、8時を少し過ぎたところだった。
美由紀が先に降りる。

「では、これで・・・。」
源次郎が例のタクシーカードを差し出して料金の精算をする。

「では、またいつでもご連絡くださいませ。どこへでも馳せ参じますので・・・。」
運転手はタクシーカードを戻してきながらそう言ってくる。
余程、指名を受けたのが嬉しかったようだ。
これ以上はないほどの笑顔である。


(つづく)





+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。