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第2話 夢は屯(たむろ)する (その106)
路地を通って、商店街へ出る。
その商店街のアーケードから降り注ぐ蛍光灯の光のためなのだろうか、美由紀の顔が幼く見える。

「さっきの続きみたいになりますけれど、・・・そのお見送りって、本当に大丈夫なんですか?」
源次郎は、まだ何となく不安である。
まさか、美由紀のことを自分の女だとは思っていないが、今、こうした関係でいる以上、それは誰にも壊されたくない気がするのだ。
興奮状態でいる客席に、踊り子を降ろすというのは、無茶なことではないのか。
今日は、どうもなかったとは言っているが、それが明日からもそうだという保証は無い。
だから、「触られたらどうするのか?」と訊いたのである。

「あははは・・・。源ちゃんはホント優しいのね。まあ、そういうこともあるとは思うよ。でもさ、私の仕事はそういうのをいちいち取り上げていたら、仕事にも何もならない。それはそれで対処するしかないわ。」
美由紀は、ゆっくりと歩きながらそう言う。
「・・・・・・・・・・・・・」
「だからさ、・・・・そうなったら、そうなったで、さっきみたいに源ちゃんが抱いてくれればそれで良いのよ。お客をとっ捕まえてどうのってのは無いと思うよ。そうなれば、それは支配人の責任だから。」


店に、いや「美由紀が育った家」に着く。
暖簾を分けて入ると、昼間より混雑している。
その中を、同じように一番奥まで突っ切って、階段を上る。

前回と同じようにお湯と洗面器などがちゃんと準備されている。
源次郎は、緊張感を持つように努力している。
今日最後の舞台が終わったという安堵感もあるが、自分の仕事はまだ終わっていないと考えている。

荷物を降ろしてから、直ぐにお湯の用意をする。
そして、その中にタオルを入れてゆっくりと浸す。
美由紀がスカートをたくし上げる。
前張りがかなりきつそうに見える。
いつもより多少時間を掛けて、それを取り去った。
そして、美由紀は階下へと行き、源次郎は辺りを片付ける。
ここまでは、いつもと変わらない。

ちゃぶ台の上に灰皿が乗っていたが、源次郎はそれを畳みの上に降ろす。
そして、鞄から笠野から預かったファイルを取り出し、それをちゃぶ台の上に置いた。
だが、源次郎は自分でそれを見ようとは思っていない。
美由紀が戻ってきたら、これを預かりました、と渡すつもりである。

美由紀は怒るかもしれない。
自分の過去の契約条件などを細かく書いた手帳を渡すと言ったのである。
交渉を源次郎に任せたい、とまで言ったのである。
その意思に反するようだと思いはすれど、源次郎はどうしても自分でそれをみるつもりが起きない。

下から、階段を誰かがゆっくりと上がってくる気配がする。
その足音からすると、どうやら美由紀のようだ。
源次郎は、慌てて立ち上がって、階段のところまで行く。
見ると、大きなお盆に料理を載せたものを両手で持って美由紀が上がってくる。

「美由紀さん、そんなことは僕に言って下さい。やりますから。」
狭い階段を上から迎えに行こうとする。
それに気付いた美由紀が、首を大きく横に振る。
「いいの、ここでは私がやるの。・・・だから、源ちゃん、そこをどいて。」
汁物が載っているようで、美由紀は、一段一段、踏みしめるようにゆっくりと上がってくる。

源次郎は迷ったが、美由紀の言うとおりに、階段から離れて待つことにする。
ようやく階段を上がりきったところで、美由紀が言う。
「源ちゃん、ちゃぶ台の上に物を置いちゃだめ。これが置けないでしょ!」
だが、言葉とは裏腹に、美由紀の顔は笑っている。楽しそうである。

源次郎は、またまた急いで折角出しておいたファイルをちゃぶ台の下に移動させる。
美由紀は、それを確認してから、一旦、大きなお盆を畳みの上に降ろしてから、一品ずつを丁寧にちゃぶ台のうえに運び上げてくる。
源次郎が、それを手伝おうと腰を上げかけると、やんわりとした目で、それを制してくる。
「駄目だったら!・・・・源ちゃんは、そこにじっと座ってて!」
そう言ったかと思うと、
「残りの料理も取ってくるから、ちょっと待っててね。」
と言い残して、美由紀はスカート翻してまた階下に消えていった。

何となく座り心地が悪い源次郎だが、美由紀の喜々とした顔を見ていると、下手に動けないと思ってしまう。


(つづく)



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