第2話 夢は屯(たむろ)する (その1059)
誰も乗っていなかったエレベーターに乗る。
そして、5階のボタンを押す。
2階から5階への移動である。
今ほどにエレベーターのスピードは速くなかったものの、それでもほんの数秒で再びドアが開く。
「ああっ!」
ドアが開いた途端、源次郎の口から思わずそんな叫びにも似た言葉が出た。
そう、そこにはエレベーターを待つ人が何人も立っていたからだ。
「おおっ! 失礼を致しました・・・。」
最前列にいた人物がそう言った。
どうやら、その人達も源次郎と同様に驚いたようだった。
まさか、誰かが乗ってくるとは思っていなかったらしい。
そして、その声で、そこにいた集団が左右に道を開けてくれる。
エレベーターは降りるのが優先するというマナーどおりにだ。
それでも、源次郎はなかなか足が前に出なかった。
「ありがとうございます。」
そう言ったのは美由紀だった。
そして、第1歩が前に出ない源次郎を半ば押し出すようにしてエレベーターを降りる。
気が付いたら、源次郎は美由紀に腕を取られたままで廊下を歩いていた。
「どうしたの? 源ちゃんらしくもない・・・。」
背後でエレベーターのドアが閉まる音がしてから、美由紀がそう言ってくる。
「い、いえ・・・。」
源次郎は言葉が無い。
エレベーターの前で待っていた人達の驚いたような顔が目の前に蘇ってくる。
「気にしないのよ。」
「べ、別に・・・。」
「そ、そう? だったら、もう何も言わないけれど・・・。
私とこうしているのが恥ずかしかったのかと・・・、そう思って・・・。」
美由紀はズバリと言って来る。
さすがに、美由紀である。
源次郎の性格や心理をほぼ正確に読み取ってくる。
「そ、そんなことは・・・。」
源次郎は敢えて虚勢を張る。
少なくとも、言葉でそれを認めるわけには行かなかった。
やがて部屋の前に来る。
そこで、ようやく美由紀が源次郎の腕を解放してくれる。
ポケットから鍵を取り出して開けなければいけないからだろう。
で、源次郎がその鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。
「ん?」
源次郎が首を捻る。
開いていたのだ。
(つづく)
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