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第2話 夢は屯(たむろ)する (その104)
仕方が無いから、源次郎は咥えた4本目の煙草に火をつけた。

さすがに、口の中には、苦々しさが募ってくる。
吸いすぎだよなぁ、源次郎は自嘲する。


さきほどの男達が、着替えを済ませたようで、1人2人と順次帰っていく。
その頃になって、ようやく女たちが、これまた1人2人と事務所に入ってくる。
最後の舞台が終わったからだろう、皆、一様に舞台化粧を落としている。
それを見て、源次郎は「なるほど」と思った。
舞台と舞台との間には、殆どの女は舞台化粧を落とさないのだ。
今日2回目の舞台の途中で抜けてきたあの富の女もそうだった。
濃い化粧のままで煙草を吸っていた。
それが、やはり最後の舞台が終われば、当然にそうした舞台化粧は必要が無い。
だから、それをすべて落としてから、普通の化粧に塗りなおして帰るようである。
そのために、そのまま帰れる裏方さんとはタイムラグが生じるのだ。
女達は、そこに時間を掛けているようである。

先に出てきた女が、源次郎のテーブルの端に座ってくる。
どうやら、帰る前に煙草を吸うようである。
若い方の子が、アルミでできた灰皿を他の机から持ってくる。
「やっぱり、初日は疲れるよね。いくらリハ積んでいても、本舞台は本舞台。緊張するわ。」
「マヤさんでも?」
「ミスズちゃん、これは何年やっても変わらないわよ。初日の緊張感って。」
「そうかなぁ、私はリハの方が緊張するよ。ディレクターなんかに細かいこと言われるもん。その点、本番はお客が相手。サービスさえしたら、いちいち文句言わないもの。」
「あはは・・・ミスズちゃんは現代っ子だねぇ、・・・でも、サービスには注意しなよ。最近は、これが目を光らせてるから。」
マヤと呼ばれる女が、額のところで指を丸くして言う。
それが警察のことを指す隠語らしいというのは、源次郎も知ってはいた。
それを見たミスズと呼ばれる若い女が、声を潜めてマヤに訊いている。
「マヤさん、それって、ホント?」
「ああ、東京や大阪は、結構キツイらしいよ。引張られた子を何人も知ってる。」
「ここにも来るのかなぁ?」
「さあ、どうなんだろ。でもさ、今の支配人は、結構えげつないことが好きだから。」
「オケケ見せたら、それだけでお客喜ぶモンね。」
「でも、それで引張られるってことあるから、気をつけるんだよ。」
「・・・・・う〜ん、私、サツだけは行きたくない!」
「引張られたら、それこそ、全裸にして調べられるそうだよ。舞台で見せてないのに、サツでは見せることになったって、ダチが喚いてた。」

そのとき、奥から美由紀が戻ってきた。
いつも付いている舞台化粧の担当の子も一緒だ。

「源ちゃん、お・ま・た・せ・・・・。」
美由紀は、ご機嫌な様子である。
その脇を、化粧担当の子がすり抜けるようにして、
「じゃあ、私はこれで・・・・、また、明日からもよろしくお願いします。」
と美由紀に声を掛けていく。
「うん、あの色使いだけはちゃんと覚えておいてね。」
美由紀は、さよならの言葉の代わりに、そう言った。

「じゃあ、ミッキーさん、私たちもこれで失礼します。また、明日、よろしくお願いいたします。」
先ほどから話していた2人の女が、並んでそう挨拶をする。

「うん、じゃあ、また明日。」
美由紀は、源次郎の肩に手をやりながら、出て行くふたりにそう言葉を投げる。


(つづく)



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