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同名小説の第2話である。時代は昭和40年代。現代とは明らかに違うゆったりとした時が流れていた。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その1)
源次郎と美佐子の夫婦が管理人をやっている「ミサコーポ」は、賃貸マンションである。

源次郎の母親が、嫁の美佐子の為にと残した唯一の財産であり、名義も美佐子のものとなっている。
ただ、これには、ちょっとした理由があった。


源次郎は次男坊であり、年の離れた兄が一人いた。7歳年上である。
その兄は、国立大学を卒業後、大手銀行に勤め、源次郎がまだ高校生のときに見合結婚。
相手は、取引先であった歴史ある和菓子屋のお嬢さんで、当主が兄を気に入って見合話を推し進めてきたらしい。
両親はこの縁談を非常に喜んだそうである。
結婚後は、東京の大学に入学した源次郎と入れ替わるように実家に戻って両親と暮らしていたが、30歳のときに突然の交通事故で死亡。
兄夫婦には女の子がひとりいたが、妻は保険金を受取り、その娘を連れて実家に戻っていった。
両親は、その娘、つまり孫娘だけは手元におきたかったようだが、「親権」を主張する妻には勝てず、結局は泣く泣く手放すことになったそうである。


一方の源次郎は大学を卒業してはいない。
丁度、というべきか、たまたま、というべきか、時代は『全共闘全盛』であった。
大阪という多少のんびりした風土から、いきなり刺激の強い東京へひとりで行っていたのだから、仕方がないと言えないことはないのかもしれないが、若き情熱はその時流を見逃さなかった。全精力を、その闘争に注ぎ込むこととなる。
ヘルメットに、タオルでの覆面。旗竿や長い棒を抱きかかえて、都内をデモ行進した。
それを規制する機動隊とも対峙した。ワクワクする興奮が全身を包んでいた。
仲間が大勢いた。皆の目が輝いていた。
日本を変える原動力になれると思っていた。

過激な行動を見咎められたのだろう、知らぬ間に警察の監視下にあったらしく、しばらくして逮捕された。
容疑事実から3ヶ月も後での逮捕である。
容疑は「公務執行妨害」だったが、これが初犯であったことと、厳しい取調べに耐えられず、つい、仲間内の情報を喋ったために、結果としては「執行猶予」がついて釈放された。

その結果、当然のように「退学処分」が下る。
大阪に帰るに帰れず、若き源次郎はほどなくして北海道、東北、北陸を放浪することとなる。
仲間を売ってしまったという自己嫌悪も引きずっていた。
兄亡き後の両親が自分に寄せる期待も重たかった。
日本を変える原動力にと考えた自分は、どこかへ行ってしまっていた。

そして、金沢の友人宅に転がり込んでいたときに、出会ったのが美佐子である。
居酒屋で働く娘だったが、話をして、同じ大阪の人間だと分かってから、急激に気になりだした。
言葉の端々に響く関西弁がやけに懐かしく、どことなく母を感じる娘の笑顔であった。


(つづく)


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