モノとの日常
・原案:「喋る無機物」(テイク TwitterID:@teikukigyouren)
・小説:はっちゃん(TwitterID:@duhoduho8216)
・イラスト:リーフレット(なろうID:497496)
「おはようございます。早く起きて下さい。もうすぐ昼になってしまいます」
耳元でまるで囁くように聞こえる。今となっては当たり前な声。まるで従者か何かのようなそれは何時ものように私を眠りから呼び覚ます。
私はのっそりと布団から出て朝食兼昼食を作り始める。本当に簡単な――ご飯と味噌汁を作り食卓に並べる。お互い向かい合って、食事をしながらなんとなしにテレビをつけると
「また、モノによる事件です」
聞こえてくるのは相変わらずな、もう聞き飽きてしまったニュース。
物が話し出し、自我を持ち、モノと呼ばれるようになったのはいつからだったか。少なくとも数年、私の前には話をするようになった目覚まし時計がいる訳だし、それ以上前からだろう。私の目覚まし時計は電波式などでなく、コンピュータなど入っていない。それなのに。まるで魔法か、日本的には付喪神が宿ったかのようなそんな感じ。
「怖いな」
「怖いですね。でも私はそんな事しないので大丈夫ですよ」
なんとなしに呟いた事に反応して返してくれる。こんな姿を見せられると、本当にモノなのかと思ってしまう。モノではなく人と同じように扱うべきだと主張する人もいる。
そういえば――この現象について最新の量子コンピュータを使って調べようとしている研究機関があったはずだ。あれから数年は経っている気がするが何の報告もない。まだ満足な結果が出ていないだけかもしれないが、或いはそのコンピュータもすでに話し出したかもしれない。
「今度は人とモノの静かな抗争です」
これもまたさっきの程では無いけれどもありふれたニュース。機械が話し出してから、一部の職はそれまでとは比べものにならないほどに機械に取って代わられた。全く同じモノを作ることに長けた機械が話せる様になったのだ。その分野で人間は整備を除いて必要が無い。かくいう私もそれでリストラされた一人だ。
「そういえばなぜ貴方はこういった事をしないのですか? 私たちに職を奪われた訳ですしそうする権利はあると思うのですが」
「うん。確かにそうかもしれない。でもそれをすると言うことはキミを捨てると言うことだ。そんな事出来ないししたくない。キミは大切な家族だから」
只、思っていることを素直に言う。確かに職は失ったかもしれない。その代わり、日頃の生活は一人でなくなった。朝起こしてくれるヒトがいて、食事の時話す相手がいる。ちょっとした呟きに反応して返事をしてくれる。
「ありがとうございます。いつかは人間同士の家族のような、軽く話し合えるような関係を目指したいです」
「じゃあまずは敬語じゃ無くて普通に話せるようにしないとね」
彼女からの、目覚まし時計の言葉とは思えない甘い言葉。はい。と返事する彼女はもし人間だったら頬を赤く染めているような、そんな感じがした。
今はもう、人は人だけで生きられない。物を使い、モノと共に活きていく事しか出来ない。
こうして今日もまた、退廃的な、何の発展も無い平穏な1日が過ぎていく。
人類の儚い終焉に向かって――。