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超ヒトネコ伝説オマエ・モナー 妖神編 作者:詩堂炉久人
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城内見学

 城内見学

 {アイオーナ・パート}
 王から命を受けたアイオーナは素早く自分の分の旅支度を終えると、再び訪れることはないだろう頂上の城を記憶に留めておくためにショボと一旦別れ、城の中を巡っていた。出発までの僅かな残り時間。旅なれたショボによって持ち物は普段から纏められていたので、旅支度にはそれ程時間を取られなかったのだ。
 城内には妖術によるトラップがいくつも仕掛けられていたが彼は壁に触れず、窓にも寄らず、寄り道せずに目的の部屋へ向けて廊下を歩く。時々、通りかがった扉や廊下の分かれた細い通路を歩いてみたい衝動にかられたが、このわきあがる感情こそ“罠”と考え直し階段を降りる。

 書庫の扉は開けられていた。扉の横には木の看板が吊り下げられており、
 “書庫では静かに!”
 と書かれている。
 禿げ上がった壮年の受付が銀髪の半エルフを先に見つけ、うやうやしく頭を下げる。
 「これはこれはアイオーナ様」
 「噂師は居ますか?」
 「呼んで参りましょうか?」
 「いいえ、こちらから参ります」
 「いえいえ、こちらでお待ちください。呼んで参ります」
 「行かせてください。ここでの最後の挨拶になります。こちらから行かなければそれこそ失礼です」
 制止しようとする受付をよそに、アイオーナはずんずんと中に入る。所々の棚にかけられた妖術による玉虫飾りの明かりを頼りにヒト1人分しか通れぬ狭い書棚と書棚の間を進む。
 異邦の地の文献や古より伝わる書物を納めた書庫は、乱雑で酷く埃臭かった。柱がそこかしらから突き出し、その回りを迷路のように蔵書の詰まった書棚が取り囲む。おそらくこの大陸で最大最高であろうその蔵書は、ほとんどが埋もれたままで整理されておらず、その実態はほとんど掴めていなかった。
 ほどなくして彼は書庫の奥に置かれた机で、何かを羊皮紙のようなものに書いている噂師を見つけた。妖術による熱くない蛍光灯の下でも彼女は額から汗を出し、黒く艶のある長い髪を振り乱し一心不乱に。
 「お仕事中にすみません。アイオーナです」
 この書庫を司る女性司書は異国から流れ着いた歴史家であり、この蔵書に魅せられて住み着いていた。今は20人程の彼女と同じような旅の学者を使ってというよりは互いに干渉しないようにして研究を続けていた。
 噂師は人の気配に気がつき、顔を上げてアイオーナと一瞬目が合ったかと思うと再び何かを書き始めた。
 「ちょっ、ちょっと待っていて! そう、あと1分!」
 彼女は書くスピードを上げて、きっかり1分後にアイオーナに向けて羊皮紙のようなモノを差し出した。
 「これは……、ホマツ国までの?」
 それは一番下が頂上の城で、一番上がホマツ国になっている絵地図であった。
 「人皮に刺青した絵地図よ。そこに出来るだけ街と村、現在の設置されている罠と妖怪の分布を書いたわ」
 「ありがとうございます。でもなぜこのことを?」
 「三日前に絶対王が絵地図を持って来て、作成の依頼を受けたわ。出来たら貴方に渡せと。知っていて来たのじゃなくて?」
 「いいえ。初耳です」
 「ふーん。まあ、どっちでもいいわ。持っていきなさい」
 「はい。……?」
 アイオーナは地図を丸めようとしたが、裏面にかすれかけた楔形の記号が数十個あるのを見て手を止めた。
 「噂師さん。このベラデュウ語は?」
 「私が書いたものじゃないわ。絶対王じゃないの? でも妖精族の血を引く設定の貴方なら読めるハズよ」
 半エルフはこめかみに指を当てて“解読”の呪文を唱えてから再び古代ベラデュウ語の文字の羅列を追った。彼の脳裏に記号の上に解読結果が表示される。
 「えーと“力の解放の扉の先に、破壊の使い手の尻尾あり”」
 「破壊の使い手はオマエ・モナーの渾名の一つね。尻尾は……“尻尾を掴む”とか、封印された”彼”の一部じゃないかしら」
 「とにかくこれで任務の一つの手がかりは得られたことになるのかな」
 「良かったわね。じゃあ」
 立ち上がろうとする噂師にアイオーナはもう一つの疑問をぶつけてみた。
 「頼みついでに、暗黒要塞について知りたいのですが」
 「えっ?」
 彼女が本から離れるのは王の宴の時だけであり、時間の浪費と嫌がっていたが、酒が回ると上機嫌で黒ブチ眼鏡のズレも気にせずに止めどもなく様々な話を聞かせてくれた。伝承について研究を続ける彼女が“噂師”という渾名を持っているのはそんな訳からであった。
 そんな彼女であったが、暗黒要塞の事については余り知らなかった。それでもアイオーナのたっての願いと伝えられる伝説から関連する部分を選び出して教えてくれた。
 「私が知っている限り、暗黒要塞の記述はここにある2冊しかないわ」
 彼女は書棚から辞典ほどの分厚い妖術大戦の攻略本と、単行本ほどの大きさの詩人レイリークスの詩集を持ってきた。
 「そして記述の箇所は、攻略本のココと詩集のココね」
 「すごいな。よく覚えていますね」
 感心する半エルフに噂師は笑って応える。
 「私は司書よ、なーんてね。検索ソフトが私のココに常駐しているからに決まっているじゃない」
 そう言って彼女は自分の頭を指差す。
 アイオーナは攻略本と詩集の一ページに書かれた箇所をメモに書き写してから礼を言い、書庫を出た。
 (さて、次は遊戯室だな)



 黒将棋の為だけの遊戯室。中央に黒い瑪瑙の盤が置かれている。ここにも部屋付きの盲目の少年奴隷が黒く輝く駒を磨く。四方には赤黒い柱。床は盤と同じく藍と乳白色の市松模様。三年前まではもう一人の宰相ラオーグと王が黒将棋の試合を行った場所と聞く。王、女王、妖術師、占星術師、商人、騎士、雑兵、暗殺者、予言者、奴隷、民……、20もの駒を駆使して三つの舞台で競うゲームである。妖術の掛かった駒は状況に応じて変化する。それが遊戯に運命と解答と興をもたらし、差し手をその世界に引き込んだ。

 (天球儀室はパスしよう。悪い思い出しかない)
 絶対王の晩餐室は広かったが食卓と椅子と暖炉の他は壁しかなかった。それらの色調はやはり黒で統一され使われる食器も燭台も白銀と鉄で出来たものだった。王はほとんど何も食べなかった。異邦より運ばせた果物の盛り合わせか聖海で暮らす人魚の乳脂をひとかけらだけ。代わりに血を6滴垂らした黒葡萄酒かウォッカをあおる。大抵は独りで。客のあった時だけ宴を催し、人を集めるが本人は直ぐに消える。
 一転して諸侯達の集う来賓用の晩餐室では、王の恐怖を紛らわせる為か毎夜宴が繰り返されていた。皆酒に酔いしれ床にたむろし麻薬が行きかい、道化師が笑い、楽士が踊り、娼婦が媚びて快楽の園と化していた。これらの諸侯たちの暮らしは王自身のものとは酷くかけ離れていた。娯楽の貧しいこの城では仕方のない事であろうが。
 それぞれの部屋を扉ごしにちらりと覗き終えたアイオーナは通路の向こうで、オレンジ色のアフロヘアーの少年が階段を昇っていくのを見た。
(あれはレオン? そうか、屋上庭園か)
 非番の時の勇者レオンは北のバルコニーか屋上庭園でカリーナ姫と逢引している事が城内で噂になっていた。カリーナは“姫”と呼ばれてはいるが、絶対王の娘ではない。ある事情により、やむをえずこの城に居候している異邦の姫である。

 (勇者様と亡国の王女様のカップルか……、レオンはどんな任務を受けたのだろうか?)
 アイオーナは仮眠を取りに部屋に戻った。夜明けまであと二時間。

 つづく
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