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超ヒトネコ伝説オマエ・モナー 妖神編 作者:詩堂炉久人
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ミッション・コンプリート


ミッション・コンプリート

{アイオーナ&ショボ・パート}
白い霧の中。
数時間前までバエン王宮であった一部の瓦礫と霧が舞い上がり、空間に魚眼レンズのような歪みができたかと思うと、歪みから奇妙な鳴き声があたりに木霊した。
『しぃーしぃーしぃーしー』
ひとたび鳴き声がやみ、次の瞬間にはその場所に青い扉が出現した。ガチャリと扉が開き、中からアイオーナと2匹のフーストが出てきた。扉は自動的に閉まり消滅する。

アイオーナはあたりを見回し、疑問を口に出す。
「なぜこんなに霧が出ているのだろう?」
「いえ、これがこの国の本来の気象です」
白のフーストの答えに、赤のフーストが補足する。
「ホマツ国は元々霧に覆われた国です。それを妖神が結界を作って霧の出入りを防いでいたのです」
「なるほど。と、いうことは」
「妖神は倒れました。ミッション・コンプリートです」
「アイオーナ様、おめでとうございます」

風が吹いてきた。風はアイオーナの白銀色の髪をなで上げ、なびかせる。彼が何かの気配を感じ、上空を見上げると、8体のレッドドラゴンがロープでがんじがらめにした全長50メートル以上の黒い塊を持ち上げて飛翔していた。
強き皮の翼を持ち、赤い巨躯に大蛇のごとき長首を備えたレッドドラゴンたちは予想外の相手の重量に苦しんでいるらしく、首を曲げ息も絶え絶えに翼を動かし、飛んでいる。

「ショボは?」
「おーい!」
アイオーナが声のしたほうへ首を向けると、今度は空を滑るように滑空する白く輝くペガサスが視界に入った。ペガサスに乗る白銀の甲冑をつけた騎士の後ろに、真っ黒いススで汚れた懐かしい顔。思わずアイオーナの顔がほころぶ。
「ショボ!」
彼はペガサスが着地しようとする城壁の残骸に乗り、ショボを待った。やがてゆっくりとペカサスは残骸に降り立つ。

「ショボ!」
アイオーナはペガサスから降りたばかりのショボに抱きついた。
「おい、ススがつくぞ」
「かまわないさ。君が無事なら」
「ショボ殿?」
ペガサスの騎士がショボを呼ぶ。やれやれ。ショボは片手を挙げてアイオーナがじゃれるのを止めた。
「悪いが最後の仕上げだ。妖神を爆弾で消去しなけれゃならん。手伝ってくれ」

   ×   ×   ×

30分後、鎖にがんじがらめにされてひと回りほど小さくなった妖神は、レッドドラゴンたちによって妖術師たちが指定した場所に降ろされた。アイオーナにはそれが哀愁漂う敗残の黒い塊に見えた。
その間、ショボは仮設テントの中でサポートから派遣された妖術師クラウディアに、妖術による体力回復とクリーニングを施された。

「アイオーナさん、ショボさんを止めてください!」
仮設テントから出てきたショボを追って、大きな乳房をゆさゆさと揺らしながらクラウディアは彼を引きとめようとする。テントの外で待っていたアイオーナが駆けつける。
「どうしました?」
「この人、またサイロを操縦して直接妖神を消去するってきかないのよ」
「離してくれクラウディア。俺はこの手で直接仲間の仇を討つんだ」
クラウディアは腰まで届く金髪をなびかせながらショボの前に立ち、彼の顔を見つめながら説得しようとする。アイオーナから見てもクラウディアは絶世の美女の風格を備えており、むっちりとした肉体を覆う紫色のレオタードは男性の性欲をもてあますのに充分な色気をかもし出していた。
「もう現実の肉体での限界時間を越えているわ、“一度手がけた仕事は最後まで責任を持ってやり通す”というサムライ根性は尊敬するけど、ログアウトしないと危険なのよ!」
「ショボ!」
「どいてくれ! 俺が奴に引導を渡す。それに俺は睡眠を取ったハズだ」
「いくら小細工していても、システム側はきちんとあなたをモニターしていたのよ」
「クラウディアの言う通りだ。ショボ、もういいだろ」
止めようとするアイオーナとクラウディアを押しのけて、彼は右肩を左手で押さえながら前に進もうとする。そこへ男の声が飛んできた。
「うらやましい奴だな! 美人2人をソデにできるなんて」
「その声は?」
霧の中から白いプレートアーマーの騎士が現れた。肩まで届く真っ青な髪と、顎下に真っ青な髭を垂らし、青い目をしている。風もないのに青いマントが波打って動いていた。

「ミナクス!」
「久しぶりだな、ショボ」
ミナクスと呼ばれた騎士を睨むショボに対し、クラウディアは片方の膝を屈してその騎士にうやうやしく挨拶した。
「ミナクス様」
「ミナクス?」
きょとんとして立つアイオーナに、赤のフーストが囁くように注釈を入れる。
「エージェント・ミナクス様です。このゲームを作った統括リーダーであり、ゲームマスターであり、ビーダッシュ社の取締役部長です」
仮設テントの周りにいるサポートの兵士たち……転じてビーダッシュ社の社員たちは、自分たちの上役が突然現れたことに戸惑いを隠せないようだった。
「ミナクス様」
「エージェント・ミナクス」
“ざわ、ざわ――”
「皆の者、私にかまわず持ち場に戻れ!」
凛としたゲームマスターの喝で、社員たちは自分たちに与えられた役に戻り、作業を続けた。

「その姿、またチートを使ったな?」
「私はまともに時間を取ってゲームできるほどヒマではないのでね。これを本業にしている君とは違うのだ。仕方なかろう」
ミナクスに食って掛かろうとするショボをアイオーナが止めた。
「ショボ、妖神を倒すのだろ。敵の挑発に乗るんじゃない」
「テキ、敵? この私がか」
そらきた。今度はミナクスがアイオーナに挑発される番だ。
「そうだよ。今は“フォルトレー戦役”下にあるけど、本来の私たちの仕事は“不正ユーザーの撃退”並びに“ウィルス・トロイ・ワーム系モンスターの消去”だ。疑うなら雇用契約書の写しを見るかい?」
ミナクスは手と首を振り笑う。
「いや、はははははッ。こいつは一本取られたな」
「そういうことだ。俺が今ここでダミーと切り替えていたら、貴様の首は胴体とお別れしていた。そもそも貴様がイレギュラーな妖神を利用して、このイベントを組み込んだのだろうが」
「そうだ! あんたのせいでたくさんの人が死んだんだ」
アイオーナも同意する。
「おー怖。わかった。用件を伝えたらセーブせずにログアウトさせてもらうよ。あとアイオーナ君。ここは“本当の死人の出ないゲームの仮想世界”であることをお忘れなく」
そう言いながらミナクスは腰に付けた巾着袋を取り広げ、アイオーナにとって見覚えのあるモノを取り出した。
「あ、それはサイロのコントローラー」
「その通り。カモーン!」
ミナクスが叫んだ直後、彼の後ろで霧を弾き飛ばしながら、巨大な白い直方体が静かに降りてきた。
スピーカーから、ノイズが混ざった事務的な女性の声が響く。
『当方は……アンチウィルスソフト、“サイロ3”バージョン1・1……当方から300メートル圏内に邪神クラスのウィルスを確認……解析中』
「バージョンアップさせたのか!!」
驚くショボに対し、ミナクスは頷く。
「君たちが戦っている間、サイロの開発スタッフは昼夜をかまわず働き、対妖神用の装備と爆弾をバージョンアップさせていたのだよ」
「そうだったのか? ブラックだな」
「前のバージョンの爆弾を爆発させても、ウィルスは完全に消えない可能性があったからね。もっとも、それ以前のバージョンは妖神を眠らせて封印するのがやっとの性能だったな」
『解析完了……制作者名“ディープスロート”。邪神シリーズの改造型と確認……消去を実行しますか?』
「ハッカーK.Aが作ったのじゃなかったの?」
アイオーナは新型の解析結果に驚きを隠せなかったが、ショボは冷静だった。
「おそらく制作者名を詐称させていたのだろう。本物のハッカーK.Aは今、ネットの繋がらない宇宙ステーションにいるからな」
空にはいつの間にか銀色に光り輝く翼を持つ鷹が滑空していた。
ミナクスは上空に向かって叫ぶ。
「オペレータ。聞いての通りだ。通報したまえ!」
「イエッサー!」
鷹は凛とした女性の声を出して消えた。

「さあ、ショボ君。君の手で引導を渡してやりたまえ」
ミナクスからコントローラーを手渡されたショボは、倒れた妖神であった黒い塊を見て、ひと呼吸置いてから黄色のボタンを押した。

サイロはゆっくりと移動を開始する。風がゆるやかに吹いていた。
「では、さらばだ」
ミナクスは数歩後ろに下がり、耳の後ろのスイッチに手をかけてログアウトを開始した。
「エージェント・ミナクス! おまちください。せめて記念写真を……」
クラウディアはこの世界でのカメラにあたる映写機を持ってミナクスに追いすがろうとしたが、笑顔の残像を残してミナクスは消えた。

「やっと……、俺たちの旅が終わる」
「うん……」
「あ、そうだ。霧の谷で会ったモララーへの報酬どうしよ?」
「一期一会だ。どのみち“フォルトレー戦役”のシナリオ内ではもう会えないだろ。システム側が必要ならば次の戦いで会えるかもな」
ショボはアイオーナの肩を抱き2人は見つめ合う。
クラウディアは何を思ったか、映写機を2人に向けて写真をとりはじめ、アイオーナにはシャッター音が5回ほど聞こえたが、振り向くとそこには彼女と仮設テント、2匹のフーストまでいなくなっていた。

彼らは周りの人々の好意に甘えた。

それから2人は一緒にセーブし、ログアウトした。

つづく
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