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超ヒトネコ伝説オマエ・モナー 妖神編 作者:詩堂炉久人
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第1の封印解除


 第1の封印解除

 {アイオーナ・パート}
 「必殺! 分身星祭り!」
 彼は様々な形の妖神の眷属を斬り、象牙色の石で四方を囲まれた墓所の通路を進んでいた。後ろからたどたどしい空中浮遊で赤と白のフーストが彼の後ろを付いてくる。
 「ア、アイオーナ様。おまちください」
 「これが待っていられるか!」

 数分前に再度オマエ・モナーの第1封印墓所に入った時はわが目を疑った。赤の扉の向こうにあったのは青々とした麦畑のただ中ではなく、様々な形の妖神の眷属モンスターが暴れまわる殺伐としたコントロールルームの光景だった。おそらくは眷属によって立体ホログラフィ装置を破壊されたのだろう。造りはサイロのコントロールルームと同じだが、あちこちの機器が眷属によって破壊されてゆく。アイオーナに気がついた眷属たちは触手を伸ばし近付いてきたが、もはや彼にとって彼らは敵ではなかった。
 「必殺! 分身旋風斬り!」
 アイオーナは様々な必殺剣を駆使してコントロールルームにいた眷属をまとめて斬りすて、眷属の触手にからみつかれ死にかけたフーストを救出した。
 「アイオーナ……様」
 「どういうことだ?」
 「妖神です。彼が神の使いのあなたの反応を嗅ぎ付けて、ワルディスクに残存している眷属の全部隊を投入してきたのです」
 「うわわわーっ。おたすけーっ」
 悲鳴と共にドアが開かれ、赤いフーストが転がるように入ってきた。
 「サイロのコントロールルームにも敵が侵攻してきたな」
 「よっ、よくご存知で」
 「フースト」
 「はい?」
 アイオーナの呼びかけに白と赤のフーストが一緒に応じたので、彼は改めて、
 「白のフースト。封印はどうやって解除するんだ?」
 「ここから解除できるハズでしたが──」
 「こいつらに破壊されたのだな」
 「その通りです。オマエ・モナーの妖力が封印されているのはここからさらに地下に入った通路の先ですが──」
 「既に敵が入っていると」
 「あっ、はい確かに」
 フーストの答えに対し、彼はハスキーボイスのため息。
 「ハァ……。ユルユルのセキュリティだな」
 「せめて『対策パッチが間に合わなかった』と言ってください」
 天井から異音がする。アイオーナが見上げると、破壊された通気孔からいく本もの黒いヌメヌメした触手がのたうつところを夜目で確認できた。
 「こんなところでコントやっている場合じゃない!」
 彼は先程、白のフーストが指し示した階段にむけて走り出した。階段に来たところで振り返りフーストたちを見やると手を差し出す。
 「おまえたちも早く来い!」


 {ショボ・パート}
 気を失ったショボを覚醒させたのは皮肉にも耳をつんざくような妖神の咆哮であった。頭が痛み、血の匂いが鼻につく。鼻から額、頭にかけてなにかの液体の感触がする。ゆっくりと瞼を開ける。オレンジ色の非常灯が眩しく、目をしばたかせる。液体の正体は鼻血であった。しかも身体は逆さまになっており、シートベルトによって”吊られた”状態になっている。
 「くそっ、ざまあねぇな……ヒィル……よし、止まった」
 ショボは鼻を押さえ、簡単な治癒呪文を唱えて鼻血を止めた。それからスリープモードのモニターを復帰させてサイロの体勢を整えようとする。ジョイステックを引いて上昇させ、上下が逆さまになったサイロをゆっくりと回転させていく。
 「反重力装置はなんとか生きていてくれたようだ。それとも修理用ポッドのデキがよいのかな?」
 サイロは墜落する前の姿勢に戻った。だがサイロの下部には直径4メートルもの大穴が開いている。第三者カメラを動かすと、大穴の中で数十体もの黄色いピンポン玉のような物体がめまぐるしく動いているのが確認できた。仮想世界であるからこその第三者視点。
 (良い修理用ポッドを入れているな……)

 「妖神はどうなった?」
 後方カメラに映し出された妖神は頭を抱えて苦しんでいるように見えた。そして再び咆哮。
 「はっ、早く裏切り者を始末……しろ……早く……」
 妖神はバリヤーを展開させたまましゃがみ、どこかにいる眷族に命令しているようだ。

 (どうやらアイオーナではなく、身内に出た裏切り者とやらが奴へのエネルギー供給を絶ったというのか? と、いうことはアイオーナのいる封印墓所が裏切り者に襲われているのだろうか)
 「いずれにしてもさらに時間を稼ぐ必要があるな」
 ショボはジョイステックを前に倒して前進しようとする。
 “キリリリリッ、キュイイイイィン”
 「?」
 サイロは前進しない。ショボはジョイステックをニュートラルに戻し、前に倒した。
 “キリリリリッ、キュイイイイィン”
 前進させようとしても、ただ床下からの異音がコックピット内に反響するだけであった。
 「おいおいおいおいおい、おい、マジかよ!」
 サイロは壊れたまま空中を浮遊するのみ。



 {アイオーナ・パート}
 彼は玄室への木の扉を蹴り破り中に入った。そこは50メートル四方の大きな石造りの部屋であった。床から天井へは八メートルはゆうにあるだろう。部屋を支えているのは四本の胴回り三メートルはあろうかという円柱。天井の中心へ紫色の光が、白い光の粒と混ざり合い昇ってゆくのが見える。紫色の光の元を辿ると部屋の中心にある台座と繋がっている。その台座を守るようにして三つの水晶球が浮遊しているのが見える。白いフーストが口を開く。
 「あの台座の後ろにも水晶球があります。4つの水晶球を破壊すると封印が解けてオマエ・モナーの妖力が解放される仕組みです」
 「わかった」
 アイオーナは前方の水晶球に向けて駆け出す。
 だが何か黒いものが動いた。
 「!」
 彼は本能的に後方へジャンプした。黒い触手が空を切る。
 「誰だ!」
 水晶球の影がゆっくりと起き上がり上へ上へと急速に伸びていく。
 「我が名はカルフール。この妖力は誰にも渡さん」
 遂に影は実体をおび、眷属と同じモンスターの形になった。違う点があるとすれば身長は三メートルもあろうかという巨体と、顔面には白い女性の顔が浮いていることであろうか?
 「妖神の手先か?」
 レイピアを握りなおしながら。
 「違う。我は妖神を越える邪神になるのだ」
 少しバスをおびた女性の人口音声が巨大な室内に響く。カルフールの右の触手は台座へと伸びたままだ。
 「はぁ?」
 「7分前まで我は妖神のコントロール下にあったが、この妖力に誘われ、触れた。その途端に我に力が漲り、コントロールから抜け出せたのだ」
 「コントロールから抜けたのならいい事じゃないか。そのままワルディクスから出て行けばいい」
 「そうはいかない。我こそ妖神を越える邪神になるべき存在なのだ。この妖力に触れ続けてさえいれば我はさらに質量と共に知能と力が増加し、妖神を越えることが出来るのだ」
 「聞いてらんないよ」
 アイオーナは前方へ駆け出した。
 「邪魔をするなら我が相手だ!」
 カルフールは空いた左の触手でアイオーナの腹にめがけ突こうとするが、アイオーナは右に避ける。先端が尖った触手はむなしく空を切る。アイオーナは目標めがけて上段から斬る。
 「ひとつ!」
 水晶球のひとつが真っ二つに裂かれ、破壊される。
 カルフールはさらに触手を動かすが、スピードに優れたエルフ族を捕らえることは至難の技であった。
 「ふたつ!」
 アイオーナは台座の奥にあった水晶球を突いて、粉々に砕く。邪神をめざす眷属の悲鳴が上がる。
 「んぎゃやぁぁっ!」
 カルフールの1本の触手が2つに分かれ、別々の方向からアイオーナを目指すが触れることができない。

 「なあ、邪神目指すのやめたら? みっつ!」
 3つ目の水晶球を破壊。
 「おのれ!」
 カルフールは力を溜めたかと思うと触手をさらに分割させた。最後の水晶球はこの化け物の裏にあった。アイオーナは数歩後ずさりし、様子を見ている。
 「どうだ! これぞ百ノ触手。今度こそ貴様を捕らえてくれようぞ」
 「どうだか、数えたけどおまえの触手は30本ほどしかないよ」
 アイオーナは急に踵を返して、相対するカルフールとは逆の方向へ向けて走り出した。化け物は30本ある触手のうち、10本を彼の背中へ向けた。
 「遅い」
 アイオーナは向き直ってレイピアを振り、10本の触手をまとめて両断した。それから台座の向こうへと廻り、一気にカルフールの裏側へ走り掛けるが……。急に何かに掴まれたかと思うと、彼の視点が急回転した。
 「かかったぁ!」
 喜ぶ化け物の声。
 なんと地面からいく数十もの触手がアイオーナの両足を捕らえ、持ち上げたのだ。
 「さあ、このまま引き裂いてしまおうか? 苦しみの果てに死んでもらうか? それとも我に……」
 「どっちもお断りだ!」
 目標に向けてレイピアを投げた。だが──。
 「えっ」
 「び、びっくりさせやがる」
 水晶球の斜め上にレイピアは刃の半分まで刺さっていた。何も起こらない。カルフールは横目を見やり水晶球の無事を確認すると、彼の両手を触手で縛って拘束し、残りの触手全てでアイオーナに襲い掛かろうとする。
 「まずはそのテクスチャーを剥いでくれようか? いつでもログアウトしてもよいのだぞ、ふふふ」
 「くっ」
 アイオーナは触手の妖の手から逃れようと身もだえし暴れたが、両手を硬く拘束されいるため思うようにいかない。こんな彼でも誰かが近付いてくる気配は感じていた。

 「やい! ウィルスモンスター、こっち来い!」
 「ん?」
 カルフールの向いた数メートル先には白いフーストがいた。

 「やい! ウィルスモンスター、次はオレ様が相手だゾと」
 悲しいかな弱小モンスターがいかように怒鳴っていても迫力に欠けていた。
 「貴様ごときになにができる」
 カルフールはアイオーナを拘束している触手のうち3本を離し、フーストにさし向けた。だがフーストは触手から逃げ回り、捕まえられない。遂にフーストは触手の届かない部屋の入り口まで逃げることに成功した。彼はカルフールを挑発する。
 「やあい! 鬼さんこちらーっと。さあ、台座から手を離してここまでおいでー」
 「ぐぬぬぬぅ……」
 カルフールは悩み苦しむ。台座との接触を離せば、自分を挑発するフーストに相応の罰を与えることが出来る。だが触手を離したとたんに妖神に妖力が戻り、また眷属を寄越してくるに決まっている。とはいえこのままフーストをほおっておけば挑発が続く。カルフールのプライドにヒビが入ろうとしていた。
 「どーしたのかな? オレ様が怖いのか? それとも触手を離せば妖神のコントロール下にいる仲間が来るから、あいつらと戦うことになるのが怖いのか?」
 「ぬぅ……」
 「どっちかなー? どっちかなー?」
 フーストの挑発は激しさを増す。ベロを出して腰(?)を振って踊り、遂には風船の後ろをカルフールに見せて振り始め……。
 「ヌガアァァァッ!」
 遂にカルフールの怒りの鼻緒が切れ、台座から触手を離し、走り始めた。
 「コロス! コロスコロスコロース!」
 顔を真っ赤にして、アイオーナを捕らえたまま……。

 {ショボ・パート}
 彼はアイオーナを信じていた。だからこそサイロにこもり、妖神に向けてありったけのミサイルを発射したのだ。妖神はこれで消えたかと思うほどの爆発が起こり、周囲は炎上した。だが、炎の中で黒い人型がうごめいたとき、ショボは眩暈がした。希望は失われたのだ。
 「くそっ、途中でエネルギーが戻ったのか?」
 ショボがサイロに入ってきた隙間から黒い煙がコックピット内に入ってきた。ショボは換気装置をかけたが間に合わない。
 「げほっ、げほっ」
 あっというまに視界は真っ黒に染まった。呼吸が苦しい。換気装置のレベルをMAXにして息を止めて換気が完了するのを待った。と、同時に後方のカメラを確認──。
 すさまじいまでの音量での咆哮。ショボの鼓膜が破れそうになる。
 サイロの後方カメラの前に妖神がいた。鼻からも口からも紫色の血を流し、サイロを見下ろしている――!
 「ショボ、おまえは神々の手先としてよく戦った。だが……」
 妖神は再び両眼の赤い目を金色に光らせた。
 奇怪な音と共に、オレンジ色の光の粒子が両眼に集まってくる。
 「ショボ、このまま消滅しろ! 忌まわしい記憶と共に!」


 {アイオーナ・パート}
 白いフーストは来た通路を急いで戻る。飛びながら彼は部屋に残った赤いフーストがうまくやってくれると信じた。

 「コロスコロスコロスコロース!」
 顔を真っ赤にしたカルフールとフーストとの距離が縮まる。焦るフースト。だが、彼の前方に黒い馬に乗った黒い甲冑騎士が3騎も現れた。
 「しめた!」
 乗り手も馬も光沢のある黒一色に染められた3騎は走り始め、馬の四肢に打ち込まれた蹄鉄が床に当たる軽快な音と共にこちらへ向かってくる。
 白いフーストは上空へと逃れたが、100本もの触手を広げ、体長が3メートルもあるカルフールにとってこれは思いがけない事態になった。カルフールの悲鳴が通路内に響く。
 「きゃあああっ!」
 三騎の騎士のうち、真ん中の乗馬騎士がカルフールの胴体に突き刺さり爆発した!

   ×   ×   ×

 その頃、部屋の中央に向けて黒い影が動いた。
 「しめしめ、鬼のいぬ間に……」
 言葉を発した影は赤く明滅したかと思うと、そこから赤い風船、もといフーストがにょきにょきと出てきた。床から飛び出た赤いフーストはレイピアが突き刺さった水晶球を見上げ、ひとりごちた。
 「けど、腕がないボクに何ができるっていうんだ?」
 とりあえず赤いフーストは上に向かって空中を泳ぎきり、レイピアの握り部の上に乗ってみた。
 「このまま体重をかければ、これって割れるのかなあ……」
 赤いフーストは下に向けて体重を落とすが、何も変化が起こらない。
 通路の方で馬が走る音がする。フーストはNPCノンプレイヤーキャラクターの共有データベースを検索したが、記録されているSEデータにはない蹄鉄音だ。その時点で常に進化するウィルスモンスターの可能性が高い。
 「乗馬するウィルスモンスター? まさか……」

 通路の奥で爆発の音と光が発生し、爆風がこちらにもやってきた。
 「うわっ!」
 強風にふきとばされる赤い風船。

   ×   ×   ×


 「いたたた……」
 気がつくとアイオーナは傷だらけのまま通路に倒れていた。視線の向こうにはカルフールであっただろう黒い物体の上で炎上を続ける硬直した黒い馬と、停止した2つの黒い騎士と馬の影。
 「い、急がないとショボが……、妖神に消されて……しまう」
 彼は全身の痛みをこらえながら立ち上がろうとした。それに気がついた騎士の1人が甲冑のプレートどうしがぶつかる音を立てながら、こちらへ走ってくる。
 「な、何者だ?」
 だが黒い兜は何も答えを返さないまま、アイオーナのもとへ駆け寄ると、彼の首をむんずとつかんで上に持ち上げる。彼の首が締め上がり、肺に残った空気は一気に吐き出される。
 「ぐえっ!」
 アイオーナの意識が無くなりかけるその時、上から白いモノが落ちてきた。
 「オレが相手だ!」
 フーストが騎士とアイオーナの間に割って入るが、騎士の平手打ちにフーストは横に飛んだ。だが、次に騎士の視界が捕らえたのは、人のコブシだ。
 アイオーナが放った渾身のストレートパンチは的確に騎士の兜を捉え、兜は奥へ飛んでいった。え、兜だけ?
 「うわわわわっ」
 すっとんきょうなアイオーナのハスキーボイスが通路に響く。
 騎士には“頭”が存在しなかった。首から下は依然としてそこに立っている。それを見たアイオーナはびっくりして後ずさる。彼の視界の横にはもう1人の騎士が馬に乗る場面。
 「に、逃げるです」
 彼が足元を見ると、転がったフーストが再び浮遊を開始しているところであった。アイオーナは浮き上がったフーストを抱き、再び部屋に向かって走った。走りながらフーストに質問する。
 「あ、あれはなんだったの?」
 「妖神眷属のデュラハンタイプ、バージョン不明のモンスターです。首が無く自爆します」
 「そのデュラ~ってどうすれば倒せるの?」
 「不明です。過去に対ウィルス部隊が削除しようとしましたが、彼らには一切の武器、妖術が効きません。逆に彼らは自爆し、その部隊は全滅しました」
 「要はそいつらをコントロールしている妖神さえ倒せばいいんだな」
 デュラハンが追ってくる。フーストを抱いたアイオーナは横に跳んだ。相手は彼を追い越して一足先に部屋に入ってしまった。
 「まずい! 台座に触れられると……」
 「カルフールと同じことになるってことだろ!」
 彼はフーストを抱いたまま全速力で走り、追いつこうとする。だがデュラハンは部屋の中の赤いフーストを見つけるや追いかけはじめた。追いつけない。
 「くそっ!」
 「いえ、水晶球を見てください」
 アイオーナが最後に残った水晶球を見たのと、水晶球の崩壊が始まったのはほぼ同時であった。
 レイピアは水晶球を貫き通し、水晶球は砕け散った。
 「やった!」

 部屋がゆれ始め、下から突き上げるような地響きが始まる。
 異変を察知したデュラハンは手綱をたぐり、馬を急停止させた。追われていた赤いフーストは部屋に戻ってきたアイオーナが手招きしているのを見てとり、急ぐ。
 「赤いフースト! こっちにこい」
 レイピアを回収したアイオーナは銀貨を頭の上にかざして、エンダードアの呪文を唱え始めた。
 「ヒルズの頂点に君臨するメド神よ、我と我らをホマツ国バエン王宮前に転移させよ。我の願いが叶うのであれば、貴方の望む目玉の買収資金の一部を与え奉らん」
 すると彼の頭の上の何もないところに直径30センチ大の青い色のゴム製のような球体が出現した。球体はふわりとアイオーナの胸のあたりまで降りてくると、銀貨が丁度入りそうな長方形の穴を見せながらカワセミのような掠れた鳴き声をする。これがメド神なのか?
 『しぃーしぃーしぃーしー』
 彼が銀貨を入れると、球体はゴムのように縦に伸び、青色の四角い扉となった。チョコレート板のような台形が整然と並んでおり、青地に目立つ金色のノブが早く掴んでほしいと自己主張しているように見えた。
 「行くよ」
 アイオーナはそう言ってノブを回すが、彼に抱きかかえられていた白いフーストはそれを拒否するように身体を横にゆらす。
 「アイオーナ様、我々にかまわずに行ってください」
 「何言っているの? もう3人分の代金は払っているんだ。赤いのも早く」
 「はっハイ」
 赤いフーストがアイオーナの差し出す手に触れる刹那、台座の中で封印されていた“それ”は眩い光を発しながら台座を形作るブロックを内側から破壊し、上昇しようとしていた。アイオーナが目を凝らすと“それ”は発光する白い球体状の物体に見えた。
 (モナキーンの尻尾と同じ……そうか、あれが妖力の源だったのか)
 目を赤いフーストの方に転じると、彼の後ろ4メートル先に黒い馬に乗ったデュラハンが静かにこちらを見下ろしていた──首がないのにそう見えた。天井を支えていた柱が崩れ始め、部屋の崩壊はますます進むのになぜ私たちを見続けているのだろうか?
 (気持ち悪い奴だ)
 アイオーナはノブを押して青い空間に一歩を踏み出した。その時、バスがかかった女性の人工音声の悲鳴が響く。
 「待て! 力を返せ!」
 「カルフールだ! 早く」
 白いフーストを抱いたアイオーナは赤いフーストの手をぐいと引っ張り、そのまま彼らは青い空間に入っていった。
 青い扉は勢いよく閉まる。
 その直後、部屋に残っていたデュラハンは己の目的を達成するため部屋に入ろうとした傷だらけのカルフールに向けて走り始めた。
 「フフフフ……、貴様も吸収し、我が野望の踏み台にしてみせよう。ハーハッハァ!」
 デュラハンが赤く発光し、触手を伸ばしたカルフールの懐に突入するのと、青い扉が消滅するのはほぼ同時であった――。


 {ショボ・パート}
 彼はまだアイオーナを信じていた。だからこそ隙間ができたサイロのスピーカーから這い出て、サイロの屋根に登り立ち、最後の抵抗を試みようとした。
 「ま、待ってくれ! 降参だ」
 「降参? 何を今更」
 「そうだ。今更遅いかもしれない。だがな、いいか!」
 ショボは胸を張り妖神の顔を睨みつけ、指をさし、言葉を続ける。見上げると妖神の両眼から発せられるオレンジ色の光がみるみるうちに薄くなっていく。思ったとおりだ。
 「俺を消去すると、貴様はずっと自分が作ったこの結界に居続けなければならなくなるぞ」
 「ショボ! おまえなど居なくても対ウィルス部隊やエージェントなど敵ではないわ」
 「どうかな? 結界を張った貴様なら、外にいる対ウィルス部隊の総数は把握できているハズだ。サポートのドラゴン騎士団たち、ペガサス・エージェントの数はおそらく二○○騎を越えている。無傷でここを出られると思うか?」
 「黙れ、黙れ! おまえの『力』に頼らずとも俺は……」
 再び妖神の両眼に光が集まりだす。だがショボは退かない。逆に両手を広げて挑発の言葉を投げかける。
 「無限の複製と拡散する歓喜!」
 「!」
 「それがウィルスの本質なんだろ?」

 ”――”
 どこからかノイズが聞こえ、そしてショボが待っていた時がきた。妖神の意思とは裏腹に彼の両眼は点滅をはじめ、黒い身体のそこかしこに現れていたオレンジ色の光は消失した。
 「あ、あ、あ、あれッ?」
 妖神は言葉を発しようとしたが言葉にならない。
 「あれッ? あれェへれ――」
 妖神は膝を屈し、そしてそのままサイロに寄りかかるように倒れはじめた。あまりに突然のことだったので、ショボはサイロの屋根から飛び降りるしかなかった。
 天地をつんざく地響きの音と共に、大量の土煙とホコリと瓦礫が舞い上がる。

 つづく
+注意+
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