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地獄と・・・
作:神名代洸


何処までも落ちていく…。
それは分かっていたことだった。

俺は人を殺した。
ほんの些細な事が原因の喧嘩が、気がついた時には相手は死んでいた。

俺はその時は気が動転してしまいどうすればいいのかさえも頭に思い浮かばなかった。今この瞬間も心臓の鼓動は驚くほど早い。
べったりとした両手のひら…。

《自首するか?いや、刑務所には入りたくない。》

心の中で俺は叫んでいた。


「おい。」

考え事をしていたので、突然声をかけられた時は飛び上がるほど驚いた。もう俺が殺したと警察は分かったのか・・と声の方を向くと目の前にはいかにも強面の男が立っていた。
右の頬には斬られたような傷跡が大きく醜く残っており、一度見れば記憶に残る傷だ。


「おい。」
「俺?ですか?」
「当たり前だろ。お前の他にここに誰がいるって言うんだ?」
「でも、俺はあんたを知らない。誰か人違いじゃないのか?」
「おいおいおい、お前、俺にそんな口を聞いていいと思ってるのか?俺はお前の事知ってるぜ。お前、さっき殺しただろ。」
「えっ??」
「しらばっくれるな。俺は見てたんだからな。お前は人殺しだ。」

「おおおおおお、俺をどうするつもりだ。警察にでも知らせるつもりか?」
「なんでそんな事をしなくちゃいけない?そんな金にもならない事やってもしょうがねぇ。お前はいい金づるだからな。おっと、逃がさねーよ。」

男はそう言いながらニヤニヤと笑った。


俺は考えた。
こいつ一人だけしか知らないなら殺して逃げればいい。こいつとは何の面識もないからまず足はつかない。

「あんただけか?見ていたのは。」
「ああ、そうさ。こんないい金づる他の奴に知らせるバカじゃねーよ。たっぷりといい思いさせてもらわなくちゃいけないからな。」

男はそう言いながらズボンのポケットからタバコとライターを出し、タバコを口にくわえるとライターで火をつけた。

俺は今この瞬間、考えた。
また殺さなくてはならない―――、しかし、もう人一人を殺しているのだ。
<今更ここで怖じけづいてどうする?>
俺は躊躇いをすて、少しずつ身体を男の後ろへと動かしていった。男に気付かれないように―――。
全神経を男にと向け、スボンのポケットに手を入れた。
俺は男が煙草に火をつける瞬間…、顔を下げるこの一瞬に折りたたまれていたサバイバルナイフをポケットから出すと背後から手を回し、左頸動脈を切り付けた。
一瞬の出来事に男は声を出す前に大量の血を噴き出しながら、口からも血を吐き、息絶えた。


俺は興奮のあまり、『ゼーッ、ゼーゼー。』と肩で息をしながらもうれしさのあまり、含み笑いをした。

「やったぁ、やったぜ!これでもう、俺が殺しをした事を知る人間はいなくなった。」

俺は嬉しくて小さくガッツポーズをとった。

だがしかし、それは俺の不運が終わったわけでは無く、始まりに過ぎなかった。

それから俺は周りを気にするようになった。
誰かに見られている―――。そんな気がして仕方がなかったからだ。

その予感は的中した。

俺が行く先々に何者かがメモを置いていたからだ。
まるでそこに来るのを知っていたかのように―――。
始めのうちはビビりまくっていた。だが、それさえも次第に慣れていき、次の場所には何が書かれているかに興味を持つようになっていた。

「さてと、今度は何だ?」

ここはインターネット喫茶。
最近出来たばかりらしく、店内も綺麗で、いろいろ充実した内容になっているし、何より漫画が大量においてあり、時間つぶしにはもってこい。しかも、店員は客の顔を注意して見る事がないため、警察に通報される心配がない。

俺は案内された個室へと入り、履いていた靴を脱ぎ、リラックスしていた。
それはさっきまで何もなかった場所・・・パソコンのキーボードの下に挟むように置かれていた。

俺はその紙を取り、たたまれた紙を広げた。


【そろそろこのゲームを終わりにしよう。

私、もう飽きちゃったから、さっさと捕まえてあげるわ。】

文面からして女だ。
俺はそう思った。
“私”―――そう書いてあるからだ。
しかし、簡単に捕まる気はない。警察なんぞゴメンだ。とりあえず、作戦を考える事にした。相手を出し抜き、逆に3人目の犠牲者とするために・・・。

次の日の朝早くに俺は店を出た。
人が多い時間帯では相手を見つけるのは難しい。それならばかえって早い時間なら人も少なく、見つけやすいと思ったのだ。

俺は回りに神経を集中し、相手がどこにいるのかを気にしてゆっくりと歩いていた。


「ねぇ、君。」

すぐ近く・・目の前に突然高校生くらいの女の子が立っていた。制服を着ているところからすると部活か何かで朝練に行くところなのだろう。

「な、何だ?突然。」
「簡単に見つかったらつまんないじゃない。」

そう言われた時初めて目の前に立っている少女がメモを残した相手だと分かり、ポケットに手を突っ込んだ。ナイフを掴もうとして。

「そんなモノ持ってたって一緒よ。私を殺す事は出来ないわ。」
「へっ、へへっ。そんなのやってみなきゃわかんないだろ?お嬢ちゃん。」

男は言いながら少女にナイフを見せ、相手をビビらせようとしたが、相手は全く動じていない。イラついた男は振り回し、切りつけようとした。いや、斬りつけたはずだった。しかし、斬られた場所から流れるはずのモノが流れない。そう、“血”が――。

「ば、化け物?幽霊?ヒッヒー!」
男は少女が近づいてこれないように、狂ったように振り回した。しかし、少女は近づいてくる。

「悪行をした人間が行き着くところへ連れて行きます。それが私の存在理由。」

感情を見せない少女はその時初めてかすかに微笑み、消えたかと思うと男の背後に現れ、自身の後ろに開いた真っ暗な穴へと引きずり始めた。

「わっ、悪かった。ちょっとした事故だったんだ。ゆ、許してくれ。」

男の懇願は少女に聞き届けられる事無く、引きづり込まれて行った。



地獄と言う穴へ―――。



『ゆっ、許してくれー!』


男の声は誰の耳のも聞こえることはなかった。














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