「その問題の答えは257だよ。」
武はいつものように、伝わってくる助言通りに解答用紙に記入した。
期末試験最後の科目、数学。
「今回は相当難しく作るから覚悟しておくように。」
なんて、先生は言ってたけど、俺には関係ないよ。なんせ『この助言』通りにやってりゃあ、どんな試験だって満点なんだから。
武にそれが聞こえてくるようになったのは1ヶ月程前。
その日、武は彼にとって重大な2択を選ばされていた。
その2択と言うのは、自分と友人のどちらかが、喫茶店での飲食代を全額払うと言うもので、
友人が印が入っているのと入っていない爪楊枝を用意し、無印を手にしたほうが代金を払う、
という他人から見ればしょうもない、ちっぽけなものだったが、武にとって飲食代3000円弱は辛い。
なんせ来週発売されるCDが買えてしまうではないか。絶対に印があるほうを引かなければ。
一体どっちだ。あいつは嫌らしく片方を上に突き出している。
出てるほうが無印、と思わせて裏をかいて印付、じゃあ自分はその裏をついて・・・・・。
なんて迷っていると、突然、武の耳に
「印付は出てるほうだよ。」
とどこからともなく、声が聞こえてきた。
「なんか言ったか?」
「は?何も言わねえよ。それより早く引けよ。」
空耳か・・・。まぁ丁度いいから引いて見るかな。
結果、武は印付を引いた。あの時はたまたまかなと思っていたが、確信したのはその数日後で、母親に付いて宝くじを買った時だった。
買うくじを選んでいると、またしても突然、
「ここに1等は無いね。2等も3等も無い。4等はあるね。あれだよ、○○○○○○番。」
その宝くじはあっていた。4等の100万円。
俺には天使がついているんだ。あの声の通りしていれば何でも出来るんだ。
答案が返ってきた。国語数学理科社会英語すべて100点。500点満点。もちろん学年トップ。憧れのあの子にも「すごいね」なんて言われちゃった。
これさえあれば、高校受験、大学受験だって楽勝だ。全く、いい人生だな。
勉強だけじゃない。小学校の頃からやっている野球だって、狙い球を教えてくれる。
くるところが分かってれば打つのだって簡単だ。ホームラン、ホームラン。
家に帰って、親に答案を見せると、泣いて喜んだ。
「がんばったわね。ご褒美は何がいいかしら。」
ご褒美なんていらないよ、お金なら宝くじをまた買えば、いいんだから。
さてと、ご飯も食べたし、風呂にも入ったし部屋でテレビでも見て寝るかな。
しばらくテレビを見ていると、例の声が聞こえてきた。
「ベランダに出て。」
ベランダ?そうか、強盗犯でも来るのか!!
武は以前もこんな変な助言を聞いた。あの時は、「すぐそこの、花屋に入って。」だったかな。
瞬時に入らなかったら、後ろから猛スピードで来た、トラックに引かれて即死だったんだと思うと今でも恐ろしいよ。
以前の経験を生かして、武は素直にベランダに出た。
■ 中学3年生、自宅から飛び降り自殺 ■
8月11日、早朝、自宅の前で県内の公立中学に通う竹森武君が、倒れているのが見つかった。
争った形跡が無い事から、自宅2階の部屋から飛び降り自殺の可能性が高いとされている。
友人達は、、
「明るくて、友達も多い人気者。特に最近では、勉強がすごく出来て、自殺するとは思えない。」
と口を揃えて言う。遺書などは見つかっていないが、受験を控えてることからの受験ノイローゼではないかと思われる。
・・・全く、人間って馬鹿だよな。ちょっと手伝ってやるとすぐ信じてさ。「そこから飛び降りて。」はちょっと自分でも横着したかな、と思ったけどあいつが馬鹿で良かったよ。
まぁこれで自分も晴れて立派な悪魔になれた。あいつには感謝しているよ。
冷たくなった武の耳には、笑い声が永遠に流れ続けた。
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