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時間停止能力者のためのリスクマネジメント入門
作:雛祭パペ彦



超能力者といえども裸踊りは勘弁してお( ^ω^)


 英語のテスト開始から40分以上が経った。
 15問あるうちの2・3問は解けた。でも、正解かどうかはわからない。
 もうそろそろ、1限目終了のチャイムが鳴る頃だ。

 ボクは――息を止める。

 黒板の斜め上にある壁時計が針の音をたてるのをやめた。
 さっきまでうるさかった「カタカタ」というシャープペンシルの音も聞こえなくなった。

 世界が停止したのだ。

 さて、どうしようか。ボクは、キョロキョロと周りを見渡し、たしかに時間が停止していることを確かめた。
 やることは決まっている。もうすぐ1限目が終わるということは、ボク以外のほとんどの人間が、英語テストの全15問を解答し終えているということだ。
 そして今、ボク以外の人間は動けない。おそらく「停止」しているという実感すら無いだろう。

 つまりは「みんなのテストの答えを見放題」というわけだ。
 いわゆる、カンニングだ。竹山だ。

 息を止めてから、すでに30秒が経過していた。
 すこし苦しくなってきたので、とりあえず呼吸をする。

 ふたたび時間が流れはじめる。
 秒針やシャープペンシルの音が、いっせいに湧き起こる。

 でもまた止める。

 このまま自分のシャープペンと解答用紙を持って、うちのクラスで1番成績が良い「山川可南子」(やまかわ・かなこ)の席に移動すればいい。
 そして全てを丸写ししたあと、3問か4問ほどを違う答えに書き直せばいいのだ。まったく同じ解答用紙では、カンニングがバレてしまう。

 でも、ボクは実行できずにいる。
 思いきって席を立てないでいる。
 それは、なぜか?

 うちの高校では、テスト中のカンニングが禁止されているからだ。
 というか、カンニングを禁止していない学校などあるはずがない。

 もしカンニングが発覚した場合、その生徒は――全校生徒の前で「一発ギャグ」を披露しなければならないと校則で定められていた。

「カンニングを行ったものは、即退学処分とする。ただし、カンニング者は、学校長を筆頭とした全教員および全校生徒の対面において、オリジナリティかつ爆笑誘発性を備えた一発ギャグをおこなう事により、その行為はただちに免責される」

 追記として、

「ただし、一発ギャグの披露によって笑いを誘発された者の頭数が、全教員および全校生徒の7割以上に達しなかった場合は即退学処分とし、その日のうちに北朝鮮へ強制転校処分とする」

 と定められているのだ……なんという厳しい校則なのだろう。

 以前、ボクは見たことがある。
 あれは確か3年生の女の先輩だったと思う。
 大学推薦にかかわる重要なテスト中にカンニングをしていて、それを教師に見つかった。

 あれは見ていて思わず同情したくなるような、屈辱的な見世物イベントだった。
 その女の先輩にも名誉というものがあるので詳しくは書けないが、数百人の生徒が見守るなか、彼女は壇上に登場するやいなや身に着けていた服を脱ぎはじめ、突然あんな事やこんな事を……これ以上は話せない。

 ボクは怖かった。
 確かに今、時間は止まっている。ボク以外の人間は、身体が動かないどころか、なにかを考えることすら出来ない状態だ。
 だからクラスの優等生・山川可南子の解答用紙を丸写しすることなど簡単なことだ。

 でも、ボクにはできなかった。
 もし万が一、カンニングしている最中に何かの間違いで時間が流れ始めたとしたら……ボクのカンニング行為はバレてしまう。すなわち一発ギャグだ。

――そうなったとしても、バレる前にまた時間を止めればいいじゃないか。

 と、普通は考えるだろう。ごもっとも。
 でも、そんな緊急事態において、ふたたびボクの意思によって時間停止が行える保証などどこにもないのだ。今朝の交通事故の時におばあさんを助けようとしなかったのも、そういう事情による。

 つまり、こういうことだ。
 ボクは、ボクの時間停止能力を信頼していない。

 ボクは、自分の超能力を全く信用していない超能力者なのだ。












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