超能力者といえどもパジャマがスク水だお( ^ω^)
末っ子のセシルに、あやうく頚動脈を噛み切られそうになったボクは――そのあと、およそ74回ほど土下座を繰り返すことで、なんとか許してもらうことができた。
「そうだよね…。チロルチョコを金塊に変えるなんて…ふつう信じられないよね……」
「…ということは、アリスは信じてるってこと?」
「うん…。お父さんの話は本当だと思う」
これは――悲劇だ。
「チロルチョコを金塊に変える」という馬鹿げた妄想を実現するために、幼い子供たちを置いて家を飛び出していった父親。
そんなどうしようもない人間を、実の父親だという理由で信じ、ひたすら帰りを待ちつづける幼いリリスとセシル。
生活費を稼ぐために、毎日クタクタになるまでアルバイトにあけくれるアリス。
――これが悲劇以外のなんだというのか。
「ま、まあ…。アリスが信じてるっていうなら――他人のボクがとやかく言う資格なんてないよ……」
どうすることもできないという無力感にさいなまれながら、ボクはなるべく言葉を選んでアリスに告げる。
でも…本当にそれでいいのだろうか?
たとえセシルに頚動脈を噛み切られてでも、しつこく説得し続けるべきではないのか?
……いや、それは困る。頚動脈を噛み切られたら死んでしまう。死ぬのは、困る。
「あ…そうだ。ピョロ助くん。ちょっと待ってて……」
そう言って、唐突にアリスが立ち上がる。
「食後のデザートなら、お構いなく」
「ち、違うよ――。ちょっと待っててね…」
「……ずうずうしいやつだな」
「セシル! お客様に失礼でしょ。」
また飛びかかって来そうな眼でセシルに睨まれること1分間。
すぐにアリスが戻ってきた。
その手には――チロルチョコが1個。
「そ、それは…食後のデザート?」
「――絶対、クラスのみんなには言わないでね」
みんなには言うな…? いったいどういう意味だろう――そうか! ひと足早い、バレンタインチョコってことか!!
「えへへ…なんか照れるなあ〜。でも、もうボクたちは付き合ってるんだから、べつにみんなに内緒にしなくても――」
「そうじゃないんだけど…。まあ、とりあえず受け取ってください。」
「あはは…なんか照れるなあ〜。」
「ばっかじゃねーの! いいから、さっさとうけとれよ!!」
モジモジしているボクに業を煮やしたのか、セシルが突然立ち上る。そして、姉のアリスからチロルチョコを奪い取ると――それをボクに向かって投げつけた。
「うわっ…!」
その瞬間、ボクは反射的に「時間」を止めた。
セシルが投げつけたチロルチョコは、ボクの顔のすぐそばで静止していた。なんという正確なコントロール…などと感心している場合ではない。
「さて、どないしよ」
ちょっとニセ関西弁を使ってみた…まあ、そんなことはどうでもいいとして、ボクは迫り来るチロルチョコを回避しなければならない。
たかがチロルチョコ。
されどチロルチョコ。
顔面に直撃すれば、ちょっとくらいは痛いだろう。
「でもなあ…」
ここで華麗にチロルチョコをかわして見せようものなら、セシルの機嫌が悪くなるに違いなかった。今後、アリスとの肉欲の…じゃなくって、健全な男女交際を続けていきたいのならば、その弟であるセシルとも友好な関係を築いておきたいところだ。
「………」
うん。そうしよう。
ここはあえて、セシルが投げたチロルチョコをかわさない方向でいくことにする。
セシルの投げたチロルチョコをあえて顔面で受け止めることで、ボクの度量の大きさを見せつけてやるのだ。なんか、そんなマンガを読んだ気がする。
なあに…。相手は、たかだか10グラム程度のチロルチョコ。顔面に当たれば痛いだろうが、出血したり頭蓋骨にヒビが入るなんてことは絶対にあるまい。ちょっと我慢すればいいだけだ。来たるべきアリスとの肉欲…あ、違いますちがいます…健全な男女交際の日々を楽しむための試練だと思えばいいのだ。
「よし」
そんなわけで。
ボクは、目の前で静止しているチロルチョコを「正々堂々」と「顔面」で受け止めることに決めたのだった。 |