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マスコット会長と、唐突な口説き。

「は?」


香樹は意味がわからない、と顔を早苗に向けた。

あまり現実的でない話をしている自覚があるのか、彼女はくしゃりと表情をゆがめる。


「たとえ殴られてもあまり酷くはならないんです。週末は、奈津美さんがお昼奢ってくれますしね。」

セリフをあてるならば「苦しい」よりも「しょうがない」のたぐいが似合う、そんな表情だった。


「止められないんだそうです、どうしても。」

「…いいのか?」

「一種の甘えかなと思うので、わたしは別に。自然に、なるようになるかなと。」

「でもお前がもたないだろ。はやめに変わるべきじゃないのか?」

早苗は肩をすくめるだけで、何もいわない。


「ふーむ。…そうだ!ならおれとつき合えばい――」

「却下で。」


名案とばかりに手をうった香樹の話を、途中で止めて棄却する。


「なんでえ?まだ160だけど、これから伸びるよ?」

「身長は別に気にしません。ていうかまたですか。」


現在の早苗の身長は香樹と同じくらい、これ以上伸びる予定はない。ついでに補足しておくが、彼女は許容範囲が広いので、香樹の身長がこのまま伸びなくても問題はない。

その点においては。


「つき合うことになったら現状より厄介なことになると、何度いえば…。」

ご自分の人気ぐらい把握してください、と早苗は眉間をもむ。


くるりと動くアーモンド形の瞳、たいてい浮かんでいるえくぼ、ぷるぷるの唇、外側にカールした髪。チョコより甘ったるいその外見に、糖度高めのこえ。

そんな特徴をもつ彼は、入学当初から上級生にかわいがられ、学年があがっても下級生の一部に生温かい目で見守られている。

つまりわが校の生徒会長は、いわゆるマスコット的存在というやつなのだ。


「そんなん、やってみないとわかんないだろ。」

少々粗い言葉と黒い性格が、玉に(きず)ではあるのだが。


「じゃあ言わせてもらいますけど。出逢ったときから幾度となくおっしゃられていますが、妹感覚ですよね?」

「おっしゃ…距離感が」

「ですよね?」


なおもいいつのろうとする彼の言葉にかぶせる早苗。雑な対応に、うすく色づいた頬がふくらむ。


「そうだけどさ、つき合ってみたら変わるかもしれないじゃん。」

「わたしは変わらないと思います。」

「いや、だから」

「変わりません。」


「…あーもう、もうわかったよ!この話は無し無し!ったく、これだから早苗は~」


ブツブツと悪態をつきだした香樹。

うつむいた彼は、自分を苦しそうに見つめる者がいることなど知る由もない。


「香樹先輩に、わたしの荷を背負わせるわけにはいかないのですよ。」


「なんかいった?」

「なんでもないです…そういえば、衣装変えたんですね」

あわてた早苗は、話題を彼の衣装に変えた。


香樹の現在の格好は、カボチャパンツでオレンジのマント。王子は王子でも、ギャグの世界の王子だ。巡回に行く前は素敵な王子サマだったのにいつ変えたのやら、戻ってきたときはこの格好だった。あの3人組がつっこまずスルーしたのは体育館倉庫でのおそろしい睨みのせいに違いない。


「ん~なんとなくね。」

「なんとなく。…わたしも耳と尻尾を『なんとなく』牙とマントにしたい。」

「似合わないって。」


ケラケラ笑う香樹。そのようすから、なんとか話を逸らせそうだと早苗はこっそり安堵した。


「ところで香樹先輩。」

「ん?」

「文化祭も体育祭もあるのになんでこんなに大がかりなんですかどんだけこの高校お祭り好きなんです?そもそもハロウィンとは」

「ど、どうどう。」

「どうどうって、わたしは馬かロバかドードーですかっ。」

「っ!?ぷははは、ドードーって!鳥類が出てきたよ!」


腹を抱えて笑いだす香樹により、早苗は自分の失言に気づき頬を赤く染める。


「くくく、ヒー」

「…」

彼がおおげさに笑いつづけるせいで恥ずかしさは秒速で増幅していく。



「あ~もう、やっぱいいわ。なあ早苗、」


やっと笑いをしずめた香樹は、いつもより数倍甘い、バタークリームを思わせるくどさも入ったこえで

彼女の名をよぶ。



「このまま生徒会入らないか?」



爆弾を落とすために。



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