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スピリット・オブ・ディスティニー
作:御桜夜月



第三話


第三話

 何だ・・・この胸騒ぎは。

 葵との帰り道、突然聞こえてきた悲鳴の元へ行くべく、俺達は公園に向けて駆けている。

 その最中、悲鳴が聞こえた時からだろうか、身にまとわり付くというか身体の中から滲み出るような不快感がずっと続いている。

「く・・・。」

 嫌な予感・・・これから何かとんでもない事が起きるのではないかと頭を過ぎる、それは何かは分からないけど。

 そんな、考えを振り払うようにして俺は更に足を速めた。葵が後ろから付いて来ているが、彼女の運動神経なら十分付いてこれるだろう。だけど何だ?葵には付いてきて欲しくない様な気さえする。どうしたんだろ一体。

 そんな事を思っている内に公園へ辿り着く。

 中に入ると、少女が一人、男達三人に囲まれている。

 いかにも柄の悪そうなその男達だが、彼等が日本人でない事は人目で分かった。三人はどれも背が高く体付きも良い。

 少女は年齢は俺達と同じ位だろうか、銀色の髪をしている事からおそらくは外国人であるだろうという事は予想できる。男達は彼女を連れ去ろうとしているようで、彼女は必死で抵抗しているが、それも時間の問題だ。

「やめろ!」

 集団の近くまで行き、男達を牽制するように叫ぶ。

 それに反応して彼等がこちらを振り向く。そんな男の動作につられる様に少女もこちらを向く。振り向いたその少女と不意に目が合って――

――っ!!

 先程から何やら感じていた不快感らしいものがその瞬間に一気に膨れ上がった。一言で言えば気分が悪い。まるで身体が、俺自身がその少女を拒絶しているかのように感じる。

 少女から視線を逸らし、男達を見る。

 一瞬見せていた緊張の表情も介入してきた第三者が俺達のような学生だった事を確認した後はそれもなく、余裕の表情すら見せている奴もいる。

 だが、邪魔された事には不満を持っているらしく、男の一人が舌打ちをすると、その片手が赤く輝いた。

――なっ!?

 奴が何をしようとするのかはそれを見てすぐ分かった。精霊術だ。

 それも、中、上級ランクに位置するほどの攻撃術。

「葵、伏せろ!!」

 思った瞬間に身体を反応させる。葵に被さる様にして地に伏せると、そのすぐ近くを火球が掠める。こんな町中で攻撃術を使うなんてどんな神経してんだとも思ったが、今はそれどころじゃない。

 すぐに体勢を立て直し、葵の前に立つ。分が悪い事は確かだ。それも圧倒的に。人数は三人、それのどれもが上級精霊術者。先程術を使ってきた一人ならまだ付け入る隙位あるだろうが、多分そんなに甘くない。

 俺も一応中級術と少しの上級術くらいなら形だけ習得はしている。それを行使することも出来るだろう。だが、使えるのは出来て一発だけ。こんな時にこの体質がもどかしく感じる。しかも撃った後意識を保っていられるかどうか自信がない。全く情けない話だけど今はこれで何とかするしかない。女の子二人で男俺一人のこの状況で自分が倒れるわけにはいかない。

「智君、さがって下さい!」

 その声に振り向くと、立ち上がった葵の手の平の上が白く輝いているのが見える。彼女は上級魔法をあらかた習得しており使う事が出来る。そう、使うだけなら。

 だけどおそらく彼等には効かないだろう。

 何故なら、精霊術は素質と経験でその威力が決まるからだ。葵の素質はずば抜けているが、経験は無いに等しい。日常生活の中で攻撃術を頻繁に使う事等まずない。それに対してあの男達はさっきの火球からしてその経験は葵の数十倍以上なのは明らかだ。葵もその事は重々承知しているはず。それでも今まともに術が使えるのはこの場で葵だけ、そうしなくちゃいけないほどこの状況はこちらに不利過ぎる。

「ハッ。」

 男の一人が葵を見て軽く鼻で笑うと小さく呪文を唱え始める。その手に精霊が集まりだす。

 その時、別の男が急に叫び声を上げた。俺達に向け術を放とうとしていた男もそれを中止してそちらを振り返り、俺達もそこに注目する。

 今日何度目かの驚愕。それがまず思った事だ。上空には無数の巨大な火球が俺達のいる公園、丁度俺達と男の間に向け降り注いでいる。

 その火球が地に堕ち爆発音を上げ、硝煙で視界が格段に悪くなる。

 そんな中、男達が何やら言って、その場を退散しているのだけは何とか確認できた。どうやら、これは男達の仲間の手によるものではないらしい。じゃあ一体、誰が・・・。

 そんな事を思っている内に爆発は収まり、辺りは静けさを取り戻した。そう『何事も無かったかのように。』

 もう何度驚いたか数えたくないが、あれだけの火球と大規模の爆発があったにも関わらず、公園には損害どころか傷一つ付いていない。よく考えればあの爆発の中で俺達が何ともないのも不思議だ。

「・・・あの子は?」

 俺と葵は驚きつつも、少女がいた所を見渡す。

 しかし、公園には少女はおろか火球を放っただろう人物もいない。俺達二人しかいないのだ。

「智君・・・これは。」

 葵が信じられないとでも言うように言葉を発する。

「分からない・・・一体どうなってるんだ?」

 そんな事は俺も同じなわけで、何が起こったのか全然理解できていない。頭の中はさっきから混乱しっぱなしだ。

 俺達はしばらくの間、静かな公園に佇むしか出来なかった。


「・・・俺等と別れてからそんな事があったのか。」

 公園での一件の翌日、どうもすっきりしない俺と葵は学園でその事を慎二と香澄に話す事にした。まあ、話してどうこうなるとかそんな事はもちろん思ってなくて、ただ、二人にも知っていて貰っている方が葵も安心するだろうなあっていう浅はかな考え。

「全く、酷い人達もいるもんだよねえ。女の子一人に集団で襲うなんて、いかにも弱い男達の考えそうな事だわ」

 話を聞いていた香澄は話の男達に怒りを表している。

「いや、弱いってのは間違いだろ?智也の話を聞いてるからにその男達は並大抵の奴らじゃない。」

 即座に訂正を入れるのは慎二。俺も慎二には同感、俺は今まで術同士の戦闘なんて見た事はないしもちろんやった事なんて全くない。でも、昨日奴等と実際に立ち会って見れば誰でも分かると思う。

「じゃなかったら何で女の子一人に三人もいるわけー?一人でも十分だと思うけど。」

「まあ、ただの強姦って事ではないだろうな。それと、智也に少し確認したい事がある、いいか?」

 慎二の問い掛けに頷いて答える

「男達は全て外国人風、そのどれもがおそらく上級術者、そして連れ去ろうとしているのもまた、日本人ではなさそう・・・だったか?」

「はい、そうです。」

 慎二の話を聞いたいた葵が俺の代わりに答えた。

「うん、そこから俺の予想だが、その男達ってのがその女の子をどうしても必要としていた、俺達くらいの女の子一人に三人の屈強な男を送り込んだ、しかも町のど真ん中で軍事用の術を使うってのはそうでなけりゃただの馬鹿――」

 バンッ!!

 慎二の隣で突然響いた机の叩く音。その発信源は・・・香澄だ

「っと・・・香澄、どうした?」

「そんな事どうでもいいのよ!葵が襲われたんだよ!もうそいつ等ぶっ飛ばしてやりたいわよ!」

 香澄が悔しそうに拳を震わしている。何故だろうか、今の香澄ならあの男達に勝てそうな気がする、多分・・・って今気付いたんだけど

「一応俺も襲われたんだけどなぁ・・・」

 気付いた事を呟いてみるが香澄に軽くスルーされた。うう、何か悲しいな・・・。

「そう言えば・・・その話に出てくる女の子、今日来る転校生に似てるかもな。」

 今にも教室を飛び出していきそうな香澄を宥めている葵の横で、慎二が思い出したように言った。

「え?そうなのか?」

 と言うことは、転校生は、外人?

「いや、これも噂話の中なんだけどな、その転校生ってのも銀色の髪をしてるらしい。」

「偶然じゃないの?」

 何とか飛び出す事を諦めてくれた香澄が言う。その横で葵がほっと胸を撫で下ろしていた。苦労してるなあ葵も。

「まあそう言われればそれまでなんだけどな、ただ結構な美少女だって言うのは確かだ。このクラスに限らず、他でもその話題で持ちきりだからな。」

 そう言う慎二の顔から期待感が滲み出ている。そういえば俺も登校途中でそんな事聞いたような

「おいおい、今日2組に来る転校生、結構なレベルだって言うぞ?」「マジかよ、2組良いなあ・・・俺三組だし。」「お前まだクラス隣だから良いだろ、俺なんか四組だぜ・・・とほほ・・・。」「気を落とさないで下さい先輩、俺なんか学年まで違うっすから・・・。」「こりゃ今日は都窓慰で残念会だな!「やめろ、男三人じゃ余計悲しくなる」「でもこうなりゃ騒がずにはいられないっすよ先輩!」「お前はただ騒ぎたいだけだろ!」「とにかく今日はヤケ食いじゃあーーー!!!」「おおーーー!!!」

 何か・・・思い出したらすごく悲しくなってきた。あの三人にも早く春が来ますようにって、そうじゃないそうじゃない・・・。

「あんた達はそっちが本命なんでしょ?」

 期待に胸膨らます慎二に香澄が呆れたような口調で言う。達って事は何気に俺も含まれてるのか・・・断じて違う!・・・とは言えない。

「当たり前だ。転校生で、それが女子ならば、そう期待する男子は少なくない、いや!むしろ多い筈だ!」

 同感です俺も激しく同感!はい!慎二に一票!そうだ、こんな一大イベントに期待しないでどうする、祭り、そうこれは一種の祭りなのだ。結果はどうあろうとそれまで楽しく騒げればそれで全然オッケー。そりゃ結果も付いてくれば尚良いんだけど。

「胸張って言うことか・・・でも、もし本当にその時の娘だったら、結構やばいんじゃないの?」

「ああ、それは俺も同感だ。」

 香澄の言葉に慎二が頷く。

「危ないって・・・どういうことだ?」

 納得し合っている二人に聞くと、香澄と慎二はそれぞれ呆れと哀れみの目で俺を見る。な、何だ何だ何なんだ!?

「どうしてこう、何と言うか鈍いと言うか・・・智也はこうなのかしらね?」

「ここまで来るとあれだな、生れ付きそうなんだろう。癖みたいなもんだな。まあ、そこが智也のいい所でもあるんだが・・・」

 そう一言二言言葉を交し合ってから、慎二が大きく溜め息一つ。

「あのなあ、智也。分かり易く説明してやるから良く聞けよ。お前と葵ちゃんは、昨日その娘が襲われかけている所を見たんだろ?」

「ああ、だからなん――。」

「話は最後まで聞けって・・・。その娘を襲った奴らが何が目的で、何でその娘を襲ったのかは知らないが、お前と葵ちゃんはそいつ等に顔を知られてるわけだ。要するに、もしその娘が今日来る転校生と同じなら、同じ所にいる二人はおのずと危険になるわけだ。これで分かったろ?」

 整理するに、俺達は顔を知られた。今日来る転校生がその女の子の場合、奴らが再び現れるかもしれない。それによって一緒のクラスにいる俺と葵が危険・・・なるほど!そう言う事か!

「分かるのが遅いのよ・・・。」

 ようやく理解した俺に、香澄が呆れ口調で呟き

「葵・・・大変だねえ、同情するよ。」

 と、葵の肩をポンポンと叩いている。その葵はと言うと苦笑いを浮かべながらそれを受けている。うう、まあ確かに理解の遅かった俺が悪いんだけどそこまで言う事ないじゃないかって思ったりなんだり・・・はあ。

「それもこれも、今日来る転校生がその公園の娘と同一人物・・・ならの話だけどな。」

「そうね、もしそうだったら話を聞いてみた方が良いかも。」

「そうですね。」

 そう言う香澄に葵が頷く。それなら俺もそうした方が良いと思ってる。その方が何かあった時に対応しやすいと思うし、自分や葵の身を守る事にも役立つしね。まあ、同じ娘ならって話でそうじゃない方が良いんだろうけど、それならそれで何か引っ掛かるな。何と言うかあの時感じた違和感も気になってるし・・・。

 とそこで授業の始まりを告げる鐘が鳴り、各生徒がそれぞれの席に戻り始めにわかに教室内が騒がしくなる。

「さて、香澄。さっきの事だけど・・・どう思う?」

「うーん。葵の事を考えれば、そうであって欲しくないんだけど・・・なんか引っ掛かるのよねえ。」

「そうだな。ま、俺は今を楽しむ事にする。」

「転校生の事?」

「ああ、さてさて、どんな可愛い娘が来るのか、今から楽しみだ。」

「結構楽しみにしてるようだけど、期待外れかもしれないわよ?」

「そん時はそん時だ。とりあえずその時までを楽しめりゃいいんだよ。」

「あ、そう。」

 そうして、二人もそんな中に加わる。

「どうなんでしょうね?」

 二人が席に戻っている頃、葵が訊ねた。

「さあな、でももしそうだったら俺達が守ってやらないと、あの事を知ってるのは俺達だけなんだし。」

 これはおそらく本心だろう。昨日感じたあの違和感も気になるけどそんなのは無かったとしても、俺はあの娘を守りたいと思う。余計なお世話かもしれないけどね。そもそもあの時も俺達が勝手に割り込んだわけだし。

「そうですね。智君ならそう言うと思ってました。」

 葵は笑みを浮かべながらそう言って、自分の席に戻る。何やら後ろから殺気や妬みの視線を感じるが、それは前々からもう慣れているのであまり気にしないで置こう。

 みんながそれぞれの席に戻り、しばしの沈黙の後、教室の戸が開き担任が入って来る。お、ようやくお出ましってわけか。

 と同時に、やはり転校生効果なのか、途端にクラス全体がざわめき出す。そりゃそうだろうね。何だって数日前から騒いでたんだ。今日は言うなら祭りのフィナーレ!クライマックス!最高潮!

「騒ぎたい気持ちも分からんでもないが・・・程々にしとけよ。って、言った所で無駄か。」

 担任の教師――鹿嶋秀仁かじま ひでひとは溜め息混じりにそう言うと一息ついて。
「あまり待たしても君達に悪いし、無意味だからね。・・・入りなさい。」

半ば諦めたようにそう言うと、教室の戸が開く。クラス全体、特に男子勢が期待の視線をそこに送っている。

 そして、一人の少女が教室に入って来た途端、どこからともなく拍手が起こり、それは周囲に連鎖して、最終的にはクラス全体が拍手喝采に満ちた。

 それもその筈だ。転校生の少女は一言で言えば噂以上。当にフィーバー!整ったスタイルに手入れの行き届いた銀色の髪。身長は・・・葵より少し高いかな。そんな彼女が教壇の横に立つと、拍手は一層大きくなる。もうビンゴ!ぴったしカンカン!まさしくその通り。

 そう、彼女は昨日公園で襲われていたその娘だ。あの時はあまりよくは見れなかったし、そんな暇でも状況でもなかったけど、彼女のその髪の色、藍色の目は俺の印象の深くに刻み込まれていた。おそらく葵も同じ事を思っているだろう。

でも、おかしい事も一つ。昨日感じたあの違和感を今は感じない。やっぱりあれは慣れない環境下での緊張によるものなのか。

ふと気付くと香澄がこちらを向いているので頷く事で答える。慎二はというと他の男子達に紛れて何かを叫びながら拍手していたので放って置く事にしよう。香澄も慎二の方を向いて呆れた様子で顔に手を当てている。俺も本来ならあの中に入っているのだろうけど、どうもそういう気持ちになれないのは多分昨日の事があったからだと思う。

しばしの歓迎が終わり、教室は再び静けさを取り戻す。それを待っていたかのように、少女は静かに、その口を開く。

つづく












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