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犬耳少女と、里帰り。②



とある山――というよりも樹海と言った方がしっくりくるような場所の、奥深く。

チカは迎えに来た黒スーツの獣人のニコル(38歳・男性)とボブ(25歳・男性)に連れられ、半日以上かけてようやく獣人の里に辿り着いてた。


「ふぅ……やっとつきました、か……なんでこんな不便な場所にあるんですかぁ」

「私達の存在を、一部の人間以外に悟られないようにです」

「異世界から渡って来た先祖が最初日降り立った地でもありますしね」

「さいですか……てか、どうでもいいですけどニコルとボブはなんで黒スーツなんです? 後その喋り方はなんなのです?」

「んなもん雰囲気作りに決まってんだろお嬢」

「なんか里長が気前よくかっちょいいスーツくれたんでぇ、のっかってみた感じっすね」

「さいですか……」



里を囲むようにしてそびえる頑丈な木でできた壁。その唯一の出入り口である大きな門に向かって、ニコルは大声で叫ぶ。いつもは居るはずの門番がいなかったからだ。


「おーーい。門開けてくれーー」

「……あれ? どうしたんすかねぇ。全然反応ないんすケド」

「それに、やけに静かじゃないですか?」

「……まさか、里になにかあったのか?」

「まじっすか」

「……そういえば、結局ご主人様は帰られませんでしたよね。わたしの予想が正しければ、帰ってこないという事はつまり里に辿り着いた事を意味しているんじゃ……」

「あぁ? ただの人間が里に辿り着ける訳ねぇだろ。その辺も諦めておれらときたんじゃねえのかい?」

「あ、いえ。ご主人様は人間じゃないので……どうせ先についてるんだろうなー、なんて」

「でもお嬢の家からここまでどんだけあると思ってんすか。一日やそこら歩いただけで辿り着けるような距離じゃねえっすよ」

「……多分、辿り着いてるんじゃないかなー……なんて」

「……それが本当だとしたら、そのご主人様って奴はどんだけのバケモンなんだ?」

「まじぱねぇっすね。まぁ、普通にどっか彷徨ってるのが関の山だと思うっすケド」



「まぁとにかく、ここで悩んでてても埒があかん。少々強引だが、力づくでいくか」

「っすね」


二人の屈強な獣人が、両開きの門のそれぞれの側に手を付ける。

そして、


「おおおぉぉおおお!!」

「らぁああああああ!!」


顔に真っ赤にして、力一杯押し始めた。

すると門は、徐々にひらいていき……


「あれ? 鍵がかかってないすケド」

「なんだ。やけにスムーズに開くと思ったら、鍵が壊れてるじゃないか……全く、門番はなにをしているんだ?」

「さぁ? そういやこの門、若干ひしゃげねーっすか?」


首を傾げる男二人だったが、とにかく里に入ろうということで一致した。

謎に包まれた神秘の獣人の里。その全貌が、今明かされる!


「……なんとなく、嫌な予感がするのですよ……」



重い門を押しあけた先には、粗末な作りの小屋がいくつも並ぶ光景が見られた。

里の中にはところどころに井戸が掘られており、右手の奥には大規模な田園と畑がある。突き立った犬耳をした案山子が、どこか可愛らしくもあり、シュールでもある。

しかし、そんなシュール感を押し潰す大きな違和感が、チカ達をおそっていた。

それは、


「里って……こんな静かでしたっけ?」

「いや、いつもはもっと子供たちがかけずりまわってたりだなぁ……活気に溢れているんだが」

「ちょっとオレ事情聞いてくるっす」

「おう」


ボブが近くの小屋の戸口に立ち、ノックをする。

すつと中から聞こえてくる、「ひぃっ!?」という小さな悲鳴。

不審に思ったボブが慌てて扉をこじ開け中に入ると、そこには獣人の女性が一人と、子供二人が抱き合って震えていた――



「どうだった?」

「うす。いや、オレも詳しいことはわかんなかったんすケド……昨日の夜になんか人間が来て、里の男達が追い返そうとして……その人間に、全滅させられたらしいっす」

「はぁ!?」


「はいアウトォーー!」


「で、戦えない女子供は外に出ないように厳命され、今度は里の兵力総出でかかったらしいんすケド……その後、なんの音沙汰もないみたいで。アンジーとピエールとダニーも不安がってったっす」

「……状況がよくわからんが……おれ達獣人とやり合って勝てる人間なんざ、聞いたことねぇぞ……?」

「っすよねぇ。……お嬢。そのご主人様って奴ぁ、そんなに強いんすか?」

「……少なくとも、私の全力を指先一本であしらえるくらいには……」

「お嬢は確か里の訓練学校で成績優秀だったよな……?」

「はい。いつもダンテ君と首位を争ってましたよ」

「そのお嬢が、指一本でっすかぁ? ぶっちゃけ信じらんないんすケド」

「でもこの状況を見る限り……どうやら嘘って訳でもなさそうだが。恐らくだが、事態の原因はお嬢のご主人様何だな?」

「多分そうでしょうねぇ……とりあえず、ご主人様がいそうなトコ……里長の家にでも行きましょうか」

「っすね」

「ああ、わかった」



「里長ーー! 里長ーー! ご無事ですかぁ!」

「くそ、返事がねぇっす。突入行くッすよ!」

「おう!」

「ご主人様……一体何をどこまでやらかしてくれやがってるんですかねぇ」


ガラッ! ダン!


里長の家に踏み込んだ三人が目にしたもの。

それは宴会や模擬戦を行うための大きな広間に死屍累累と詰まれた仲間の姿と、足の踏み場もないほどに散らばる、多種多様な仲間達の得物。

そして――


その中央に立ち、一本の長剣を眺めている唯一の生存者……烏の濡れ羽のような長い髪の毛を高い位置で一本に括った、年若い男の姿だった。



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