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サンタのわき毛

作者: 文屋カノン

 私が書いた、今のところ唯一の童話です。


 この作品は、賛否がはっきり分かれていまして、子供がいない人は絶賛してくれるのに、子供がいる人は皆嫌がります。


 「子供に読ませたくない童話」というカテゴリーかも知れません。


 JOMO童話賞を落選したのはそのせいでしょうか? 

 南の島のサンタクロースの、面接試験が始まりました。この島のサンタになるための条件は少し変わっています。それは白髪と白ひげであることはもちろんのこと、何とわき毛まで白くなければ、面接をパスできないのです。そう、この島ではサンタはそで無しの赤い服を着るのです。

 トムじいさんは子供の頃から、サンタに憧れていました。クリスマスシーズンになると白い袋からお菓子を取り出し、子供達に配るサンタは皆の人気者です。トムじいさんは今年こそサンタの面接試験を受けようと、心に決めました。

 今年で七十歳になったトムじいさんの顔は、白髪と白ひげに覆われています。しかし残念ながらわき毛だけは、どういう訳だか真っ黒けです。このままではサンタの試験にパス出来ません。トムじいさんは島の薬屋へと出かけて行きました。

 薬屋には、たくさんの毛染め薬が売られています。トムじいさんはその内の一つを手に取ると、やっぱり皆もサンタになりたいんだなと考えました。トムじいさんは昔の人なので、若者がおしゃれのために髪を脱色することを、知らなかったのです。

 薬を買ったトムじいさんは、早速家へ帰ると薬をわき毛に塗ってみました。

「うおー。しみるうー。」

 その薬は髪の毛用なので、わきに塗ったりしてはしみるのは当然です。しかしトムじいさんは老眼だったので、説明書をよく読まずにうっかりわきに塗ってしまったのです。

 トムじいさんは、五分ほどがまんをしていましたが、やがて耐えられなくなってシャワーをあびてしまいました。真っ黒だったわき毛はくすんだねずみ色になりましたが、雪のような白毛とはほど遠い状態です。その薬は塗った後、二十分は洗ってはいけないのだから当然です。

 トムじいさんは、濡れねずみになったねずみ色のわき毛をタオルでふきながら

「困ったな。」

 とつぶやきました。薬を使っても白くならないわき毛を白くするには、一体どうしたら良いのでしょうか?


 クリスマスの朝がやって来ました。トムじいさんは赤いそで無しの服に着替えると、白い袋にお菓子をどっさり詰め込みました。袋の口を縛るトムじいさんのわきからは、ちゃんと白いわき毛が生えています。トムじいさんはどんな方法で、わき毛を白くしたのでしょうか?

 トムじいさんは袋を抱えると、家の外へ飛び出しました。潮風が海岸のヤシの木を揺らしながらトムじいさんの鼻先に届きます。潮風はトムじいさんの白ひげを揺らすと、今度はわき毛をユラユラと揺らしました。

 すると何とわき毛は、トムじいさんのわきからポトリと落ちて、そのまま潮風にフワフワと連れて行かれてしまいました。そうです。トムじいさんは、クリスマスツリーの飾り付け用の綿を、のりでわきに貼り付けていたのです

「ああっ。わき毛が。」

 トムじいさんは、あわてて綿を追いかけましたが、綿はそのままフワフワと遠くへ飛んで行きました。

「待ってくれ。わしのわき毛。」

 袋をかついだまま、全速力でかけて行くトムじいさんを、町の人たちは口をぽかんと開けて眺めています。クリスマスの日に子供たちをほったらかしにして、かけっこをしているサンタなど見たことがなかったからです。

 トムじいさんは必死で追いかけましたが、やがて綿はどこかへ消えてしまいました。トムじいさんは、ゼエゼエと息を吐きながら立ち止まりました。遠くから他のサンタたちが子供たちを呼び集める声や、お菓子をもらった子供たちの

「サンタさん、ありがとう。」

 というお礼の言葉が聞こえてきます。

 トムじいさんもお菓子を配りたいのです。けれどねずみ色のわき毛をそり落とし、ゴマのようなそり跡が残ってしまったトムじいさんは、お菓子を配ることができません。何せこの島の子供たちは、サンタのわき毛は白いものだと思いこんでいるのですから。

 トムじいさんが、悲しそうにため息をついたそのときです。誰かがポンポンとトムじいさんの肩をたたきました。振り返るとそこには、仲間のサンタが一人ニッコリと笑って立っていました。サンタは

「メリークリスマス。」

 と言いながら、トムじいさんに何かを差し出しました。見るとサンタの手の平には綿とボンドが乗っていました。トムじいさんはそのしわだらけの顔をさらにしわくちゃにすると、嬉しそうに叫びました。

「メリークリスマス。」


 本当はトムじいさんを、ワキガにしようかと思ったんです。わき毛をそらずに綿を貼らせて、ワキガにさせちゃおうかと。


 それで仲間のサンタがワキガの薬をくれて、「メリークリスマス」と。うーん素敵。


 で、両方書いて周囲の意見を求めたら、この作品を推す声の方が多かったので、(つまりワキガを推す声もあった訳です)これで応募したんですが、落選しました。


 自分では、子供の知的好奇心を刺激するいい童話だと思っているんですが。


 この話で良かったか、あるいはワキガの方が良かったか、もしくはどっちにしろ駄目か、ご意見お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 興味深い作品でした。 私が思うに、小学生男子(女子は分かりません)ならば鼻毛、わき毛、すね毛などの話は大好きです。 少なくとも私と周りの男子は好きでした。 「サンタ=冬、…
[一言] 読んで柿の種を吹きました。  この小説には柿の種を吹かせたで賞を授与させます。
[一言] どうもです。 中々にユニークと言うか独創的と言うか……気になるタイトルですね。 中身も面白く分かりやすかったです。 こんな発想も私には思いつきませんし。 ただ……子供向きでは無いかもしれませ…
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