スライムの話
スライムと戦う と聞いて、どのような反応をあなたがするのか分からないが、
ある一定以上、魔物に詳しいモノが聞いたら、その言葉はからすぐに連想される言葉は、
「逃げ出す」である。
スライムは魔物の代表格だ。
ゼリー状の体がほぼ球体の弾力性に富んだ透明感のある外皮に包まっていて、くりくりとした目が可愛らしい印象を与える体長50センチほどの小柄の魔物。
実際、子供向けの魔物の教本は、スライムを表紙にすることが多い。
その可愛らしい外見は、子供に魔物の興味を持たせる事が出来るし、
その外見とは違う凶悪さは、子供に魔物の恐ろしさを教える事が出来るからだ。
スライムは恐ろしい。
柔らかい体は、打撃の類の攻撃を吸収してしまい効果が無く、
剣などで与える斬撃も、その回復力の高い外皮が、
すぐに再生してしまって、まったくダメージを与えることが出来ない。
むしろ、ただの銅や鉄の剣でスライムを斬りつけてしまったら、その武器が破壊されてしまう。
体の内部にあるゼリー状の体は強力な酸で出来ていて、全てのモノを溶かしてしまうからだ。
攻撃を加える事も出来ず、その柔らかい体を最大限に伸ばして行う捕食攻撃は、
盾ごと人を丸のみにすることが出来る範囲を持つので、回避も難しい。
一度飲まれれば、息が出来ずに窒息死。
スライムの酸で人の体など15分もあれば骨ごと溶けきってしまう。
繁殖力も凄まじく、リンゴ一つの栄養で、自身の分身を一つ生み出すことが出来る。
食べたら即分裂。数が増えてく倍々ゲーム。
その繁殖力の高さから、こんなバカげた話があるほどだ。
ある王国で、残忍な処刑が大好きだった王様が、
罪人に窒息しないように風の魔法をかけた上で、
スライムに生きたまま体を溶かさせる処刑を思いついた。
さっそく王様は、
処刑用の縦と横と深さが4メートルあるプールを作らせ、
魔法をかけた罪人と魔族から購入したスライムを一匹その中に入れた。
徐々に体を溶かされる痛みにもがき苦しむ罪人を肴に
晩酌を楽しんで気分を良くした王様だったが、
罪人の体が溶けるほどに、スライムの体が徐々に大きくなっている事に、気付いた。
50センチの魔物と、人一人の容積は、どんなに増えようが4メートル四方のプールを満タンに出来ないモノだろうと高を括っていた王様だったが、
魔物は"魔"物
人の手になどで管理出来るモノではなく。
罪人の体が溶けるほど、スライムが罪人の体を糧にしていくほど、
スライムの体が2倍3倍4倍と……大きくなっていき、
とうとうプールからスライムの体があふれる!となった時点で、
王様は慌てて護衛兵に魔法によるスライムの退治を命じたのだが、時すでに遅し。
スライム一匹を退治するのに、よく鍛えられた兵士が10人は必要なのだ。
人という魔物にとって最高の栄養を得た体長5メートルの大きさのスライムを、
いくら王族の護衛兵といえども一発の魔法で退治することなど出来ない。
5メートルの大きさのスライムは、魔法によって壊されたプールから出てきてしまい、
その体を100匹のスライムに分裂させて、王様やその側近を襲った。
100匹で、兵士1000人分の戦力。
それが人を一人襲うたび増えていくのだ。
1時間ほどでお城が壊滅し、夜が明ける頃には、王国は壊滅していた。
そんなウソかホントか分からない話があるのだ。
ちなみに、この時の5メートルのスライムの事を、王様が生み出したスライムだから
【クラウン】スライムというそうだ。
え?王様だからキングだろ?
って?
はは、なぜだかわからないけど、キングとスライムをくっつけちゃいけないって、
昔の偉い学者さんが言っていたんだよ。
弁護士だったけ?
まぁ、そんな強力なモンスターが、この人口500ほどの村に、
100匹ほど現れたのだ。
メイド服のまま勇者の家を出たコッタは、
周囲100メートルの気配を魔法で探知し、状況を把握した。
その状況に、体を震わせるコッタ。
くっ、落ち着け。
状況をしっかり整理しろ。
もしくは素数を数えるんだ。2 3 5 ……いやいや、素数じゃない。
魔物の数を数えろ!
スライムと思われる魔物の気配がおよそ100。
勇者さまの家の裏にある、ココから約500メートル離れた
教会らしき建物におよそ10匹。
後は点在としているが、
その他のスライムは、ほとんど一か所に集まっているようだ。
村の入り口近く。ココから800メートルほど直進した所。
そこに勇者さまと、アルト様が激しく戦っている気配がする。
……
…………
ぐはぁっ!!!
いけない!
落ち着きなさい!!
今の私の妄想を吐露してしまうと、また気を失ってしまう!!
強敵と戦うイケメン二人……
ホモォ
その敵はモノを溶かすスライム。返り血で、着ている鎧がバラバラになって、
ほとんど半裸のイケメン二人。
ホモォホモォ
そのあまりの数に、いくら勇者といえども息が上がり、肩が上下に動く。
一瞬の隙。
そこを逃さず飛びかかって来たスライムを倒したのは、
彼にとって兄のような存在である騎士アルトだった。
「大丈夫ですか勇者さま?背後を御留守にするなんて、
まだまだ稽古が必要なようですね」
あきれたような顔で嫌みを言うアルト
そのアルトに刃を突き刺して、
いや、
アルトの後ろに飛びかかってきたスライムを突き刺して、言い返す勇者。
「背後を御留守にするなんて、これからは僕が稽古を付けてあげようか?アルト?」
「は!」「は!」
そしてそのまま、半裸のまま、汗だくで敵を倒すために駆け出すイケメン二人。
…………………
ホモォ!ホモォ!ホモォ!!
ぐはぁ!!
吐露してしまったーーーーー!!
鼻血を噴出し、意識を失いかけるコッタ。
ぐ、まだだ。まだ終われん。
今ココで意識を失うわけにはいかんのだ。
がくがくと震える膝を抑え、なんとか立ち上がるコッタ。
勇者さまとアルト様の半裸な勇姿をこの目に焼き付けるまで、死んでも死にきれん!!
闘志?を燃やすコッタ。メラメラと、氷使いのくせに背後で炎が上がっている。
今行きます勇者さま!!
鼻血を出しながら駆け出したコッタは、
100メートルほど後ろの気配に反応して立ち止る。
そこには民家が数件並んでいたが、人の気配は二人だけだった。
子供。子供が二人。
先ほどまではそうだった。
しかし、今は違う。
急に、スライムらしき気配が現れたのだ!
しかも子供たちの目の前に。
……っく。
数瞬の迷いがあったが、結局子供たちの元へ駆け出すコッタ。
ああ、勇者さま達の半裸……。
コッタは鼻血と涙を出しながら走った。