嗚呼、嗚呼、嗚呼。
誇大広告ってこういうことかな、あらすじは嘘じゃないんですけれども、要点はそこじゃないっていうか、
どうもすみませんでしたァ!orz
「貴女様こそ、まさしく伝説の勇者
どうか、どうか、お救い下さいませ」
土下座のごとく、深く深く頭を下げる使者を、なんともいえない生ぬるい眼で見下ろす
「……や、……なんていうか……」
「この通りでございます、どうかどうか」
「いや、だから……」
「お願いでございます!!」
「……もう魔王は退治されましたよね?
というか、……五十年遅いんじゃ」
目の前でビキィイイ!!と石化した使者をやはり生ぬるく見下ろす
五十年前、わたしは右も左も分からないこの地に降り立った
当時わたしは十七歳、当ても無く森を彷徨ったわたしは、親切な木こりに拾われ
「ばーちゃん、これ食っていい?」
「あたしもたべたーい!」
「ぼーくも~っ」
「こら、お客さんの前でしょう
後でね、ほらほら、じっとしなさい」
今ではざっと数えて七十人は越える孫を持つ身だ、曾孫だっている……二百六十人くらい……
いや、旦那が随分頑張ったもんで、わたしも頑張って生んでしまったというか
その血を引いた子供たちもやっぱり子沢山で、結果孫盛り沢山という……
おかしいな、わたしが生んだのはたった十一人だったのに、なぜこんなネズミ算式に……
いっそ哀れを誘う使者をやっぱりため息をつきつつ眺め
今までずっと意識して見ないようにしていたその後ろへ視線を向けた
若い頃はさぞかしモテたんだろうなぁ、というような
精悍な顔つきの爺さんが、一人
現在、両親が仕事の関係で昼間ウチで預かっている曾孫たちに寄って集られ
ぴくぴくとこめかみに青筋を浮かべる、老いてもモテそうな爺が、一人
ああ、こらこら、髪の毛引っ張っちゃだめだよ、
見た感じふさふさだけどもしかしたらカツラかも知れないでしょ?
袖捲くっちゃだめ! 確かに歳のわりには筋肉しっかりついてそうだけど!!
「わたしは……」
冷や冷やしながら曾孫たちを眺めるわたしをひたり、と見据え
その人はようやく口を開いた
「わたしは…いつかそなたと縁を結ぶものと、正妃を持たずに今日まで来た」
「……は……はぁ」
「しかし、子がないのは問題であるが為、側室はとった」
「そう…ですか……」
「子供は一人、男が出来た、今はそれが跡を継いでいる」
「はぁ……」
「…それなのに………」
「えぇと……」
「子供十一人に孫七十四人、曾孫二百六十五人とはどういうことだ!!!」
調べたのかよ!
「側室との冷戦にも耐え、息子からは父上は相当なロマンチストですね、と鼻で笑われても待ったのに
この五十年期待に胸膨らませて毎日愛の詩を綴ったのに、曾孫二百六十五人って!!!」
うわぁ……
ひっくひっくと漢泣き寸前の爺さんの慟哭に使者はビクリと石化を解くと
床に頭を摩り付ける勢いでまくし立てた
「お願いでございます、どうかお救い下さい陛下のピュアな恋心!!!」
救うってソレかよ!!!
「遡って五十年前、
我が祖父は神官の託宣により貴女様の存在を知った先々代の国王陛下より命を受け、勇者捜索の任につきました
神託では貴女様が女性であることも分かり、魔王討伐のあかつきには、陛下の御正妃にも、と
しかし、祖父は貴女様を見つけることができず、跡を継いだ父もその任を果たすことができませんでした
そして私の代でようやく貴女様を見つけることができたのです」
四十三年前、魔王は箪笥の角に小指をぶつけた衝撃で滅び
その十二年後、陛下は十八歳年下の隣国の姫を側室に迎え、
一昨年現国王陛下に王位を譲られて退位ののち、私と共に貴女様をお探ししていたのでございます
切々と語る使者の嗚咽交じりの訴えに、やっぱり生ぬるいため息が出る
いや、お探ししていたのです、と言われても……
というか、大々的には魔王は勇者によって打ち滅ぼされたんじゃなかっただろうか……
確か新聞でそう読んだと思ったけど……各地で凄いお祭り騒ぎになったし……
あれでもその勇者様って伝わってくる噂では姿も性別もばらばらだったような……政治って怖いなほんと
しかし、箪笥の角に小指か……痛いよね、あれは
「我が一族が至らないばかりに、陛下にはお寂しい思いをさせてしまいました……しかし!!」
「うおう?!」
突然がばり、と頭を上げた使者にびびり
わたしも曾孫たちもびくりとなる
「現在、貴女様は二十三年前に御夫君を亡くされ独身であるとか、
再婚はぜひとも我が陛下と!!」
独身ってもう独身なんて表現ができる歳じゃないんですけど
というか再婚って、なんで
曾孫にも恵まれてもういつ死んでもいいかなー、的な老後を送っているのに
なんで今更再婚
しかも、今日逢ったばかりで、そんな切々と語られても……
「ばーちゃんお嫁さんになるの?」
「えー! あたしブーケほしーい!!」
「ぼくもけっこんしきすゆー!!」
「誰もするなんて言ってな、」
「そうだ、わたしがあたらしい曽祖父だ、お爺ちゃんと呼ぶように」
「じーちゃん、おれブリックリンの一日限定十個の特性バターカップケーキが食べたい!」
「あたしおリボン欲しいの!、ピンクのね、いーっぱいレースのついたやつ!」
「その程度、造作も無い」
コラァァァアアアアアアッ!!
三・日・後。
「ちょ、圧し掛かるなぁぁぁああああ!!!」
「何を言う新婚初夜だぞ!!」
「お互いいくつだと思ってんのこのエロジジイ!!」
「そなたもババアではないか!!」
「やかましい!」
ごっ!
「がぶふおッ?!」
永き歴史を紐解けば、セツコ=ナカムラは勇者としての華々しき功績を残し
ラドヴェシュルツ王の正妃に迎えられたその姿は仲睦まじく
その間に三男五女の王子王女をもうけ、いずれも賢き指導者として立派に育て上げたという
いや、子供できたのかよ?!
歴史は色々都合のいいように捏造されるものです
彼が節子を正妃に迎えたのは退位した後だけど、そんな事実は関係ありません
ところで男は女と違って老人になっても子供をつくれるらしいですね、七十を越えて子供を持った男性の話を聞いたことがあります
いらん情報ですがラドヴェシュルツは節子より三つほど年下です
因みに、非情に悔しい思いをしたラドヴェシュルツは怪しい魔導師から魔法を買って節子との間に子供を作りました
更に蛇足ですが、彼の側室は彼との子供が成人すると離籍して、賜った領地に引っ込んで悠々自適の隠居生活です
王位は長男が継いで、その後もその子孫が王位を継いでいきます
そして伝説の勇者の血を引いたセツコ一族はその後も物凄い勢いで各地に広がっていきました、まさしく伝説級、勇者万歳
おしまい。