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009ー偽勇者は れへ゛る か゛ あか゛った!
「これで決まったな」
 中庭のテラスに戻ってきた竜斗は開口一番に告げた。

「俺は、槍とナイフ。それと魔術の訓練。
 ツンデレは、攻撃系魔術の訓練と、俺の槍とナイフの講師。
 筋肉は、防御・回復系魔術の訓練と、内気の体力づくり。
 ツンデレと筋肉は、武器系が自己鍛錬になっちまうが、大丈夫か?」
「当たり前よ。
 今までだって、フレイム騎士団に混ざって稽古してきたんだから」
「ウム。ワシも神官騎士たちと筋肉がたぎるような実践練習ができるのでな」

 竜斗は、アーサーに背負われて、帰路の途中で眼を覚ましたレイフォンを見る。
「内気。お前は、俺たちの魔術の講師と、あとは体力づくり。
 都市から出るだけで、息を切らしてるようじゃ、ダメだろう」
「でも……わたし……魔術師だし……」

「関係あるか。魔術師だろうが、何だろうが、内気。お前は、体力無さすぎ」
「そうよ。それじゃあ、馬車がなければ何処にも行けないじゃない」
「ムウ。筋肉が嘆いているぞ」

「てなわけで、内気は、柔軟体操とマラソン(・・・・)からな」

「ひ~~ん」
 3人から言われたレイフォンは泣き声を上げた。







 人気のない中庭のテラスの円卓で、一人、竜斗が突っ伏していた。

「お疲れのようですね。リュウト様」

 竜斗がのろのろと顔を上げると、濃紫の髪のメイドがティーセットを持って佇んでいた。
「お茶など、いかがでしょうか?」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」

 メイドが紅茶を煎れながら、頬杖を付いている竜斗に尋ねる。
「リュウト様が稽古を始めて、1週間(・・・)ですか。
 セラ様は、そんなに厳しいのですか?」
「スパルタだよ。スパルタ。
 ひたすら槍で的を突いてる。
 毎日、ノルマ3000回。
 それは、いいんだが、的に円が描いてあって、中心付近は+1、その外周はー5、さらに外周はー10。
 外周部分を突くと、その数字分だけ突いた数を減らされるんだ。
 300回くらいまでなら余裕なんだが、500を越えると……しかも、休憩したら秒数分だけノルマが増えてくし。

 大型ナイフの方は、基本を一通りやってから、あとはひたすら組み手。
 投げられるわ、蹴られるわ。
 もう、さんざんだ」

「最近、セラ様が楽しそうなご様子でしたが、そういう理由ですか」
「絶対に、いじめっこ体質だ。あいつ」

 くすりと微笑むメイド。
「紅茶に砂糖とミルクは、お入れしますか?」
「いや、そのままで」
 メイドは、竜斗と自分の前に紅茶を置く。

 紅茶を啜った竜斗は、中空に吐息を吐き出した。
「そういや、メイドさんに聞きたいことがあったんだ」
「はい、なんでしょう?」
「確か、一国に一人、勇者がいるんだよな」
「はい」
「なんで、そんなことに?」
 質問の意味がわからず、小首を傾げるメイド。

「え~と、俺の常識じゃ、勇者ってのは世界に1人か2人ぐらいのはずなんでね」

「人間たちの、遙か昔からの風習と言うしかありません。
 建国したら、勇者を選出すると」
「はあ」
「これは、私の予想なのですが、他国に魔王が現れたとしますよね。
 リュウト様が、勇者のいる国の国王だとして、他国に派遣しますか?」
「利に見合うものがあればな」
「そうです。利に見合わなければ、派遣しません。
 そういうことが積み重なって、自国で勇者を擁立するようになったのだと思います。
 なにより、自国に勇者がいると、民衆を動かしやすいですから」
「確かに、カリスマが一人いりゃ、大抵の人間は靡く。
 俺の世界でもそうだったよ」
 眠そうな眼で何かを考えていた竜斗が、紅茶を啜る。

「て、ことは、魔王も複数いるのか?」
「ええ、おります。
 よく御存知でしたね」
「前に、隣の国の勇者が言ってたからな。「魔王は、1国に1魔王といかない」ってな。
 あの口調から複数いると予想してた。
 まったく、どっから沸いて出てくるんだよ」
「西の魔大陸からです」
「アン?」
「結界を抜け、魔物を引き連れて、海を越えてやってくるのです。
 そして、住みやすそうな土地に自分たちの根城を築きます。
 そこを拠点に、さらに魔大陸から魔族や魔物を呼び込みます。
 そして、その先頭に立った、まとめ役が魔王と呼ばれています」

「それ、入植者って言わねぇか?」
「我々にとっては、侵略者ですね」
「はあ。それが勇者と魔王が複数いる理由か」

「今は、この国の魔王だけを考えれば良いと思います。
 過去、魔王同士が同盟を結んだことはありませんので」
「さいでっか」
 竜斗はだらりと円卓に潰れた。


「そういや、メイドさんて、何派?」
「なんのことでしょう?」
「姫さんを中心にする王族派。
 宰相を中心とする宰相派。
 戦闘指揮官を中心とする軍閥派。
 先代巫女を中心とした神殿派。
 貴族が集まっている貴族派。
 あとは、まだ不明なのが3、4派。
 メイドさんは、どこの派閥に当たる?」
「僅か1週間で、そこまで把握しておりましたか」
「情報収集は、何もない俺の命綱だからな」
「私は姫様の護衛も兼ねてますので、おのずと王族派となります」
「あ~~、姫さんとメイドさんとマスター・フィーって、……王族派、最強じゃねぇか」
「でも、人数は一番少ないんですよ。
 ですから、発言力は今一なんです。
 リュウト様も入りますか?」
「ありがたい申し出だが、お断りしとこう」
「残念です」

 大欠伸をする竜斗。
「眠そうでございますね」
「2時間したら、起こしてもらえる?」

 メイドは右手の中に、小さい風の渦を作る。
「時間になったら、音とともに消滅します」
「目覚まし代わりね。
 じゃ、一眠りさせてもらうわ」

 すぐさま、眠りに落ちた竜斗だったが、「的が~、的が~」と、寝言を呟きながら、(うな)され出した。

 クスクスと笑いながら立ち上がったメイドが、虚空を見つめた。
 金の瞳の瞳孔が縦に窄まると同時に、パキッ と空間が爆ぜ割れる。
 メイドは割れた空間に手を差し込むと、中からマントを取り出した。

 メイドは、魘されながら寝ている竜斗の背にマントを掛ける。
「では、リュウト様。|明日が、さらに良い日になることを願って《おやすみなさいませ》」




 聖騎士たちの訓練場に、素振りの風切り音が響く。

「……998……999……1000!!」
 聖剣を1000回振り終わった光一は、剣先を地面に突いた。
「終わった~~~!!」

「勇者殿。
 その剣は相手を斬るのではなく、相手を重さで叩き割る剣です。
 おのずと振り方も変わるので、注意してください」
 指導していたアリアの忠告に、光一は聖剣を回す。
「うん。やっと、重さに慣れてきた感じだよ」
「勇者殿が努力をしたからです」
「まあ、勇者になって、もう2週間目(・・・・)だからね。
 そろそろ慣れないと」

「コウイチ様~~!!」
 青髪青瞳のシェラがタオルを持って歩いて来た。
「お昼にしましょう。
 サンドイッチをたくさん作ってきたんです」

 光一が見ると、すでにアリエルがサンドイッチを取り出し、フューが横から摘んでいる。
「フューさん。みんなが揃ってからです」
「エルちゃんよ。固いこと言いなさるな」
「巫女姫様~。早くしないと無くなってしまいます~」
「我は、そんなに大食らいではありゃせんわ!」
「はいはい。二人とも喧嘩はみっともないですわよ」
 シェラが腰に手を当てて、二人の方へ向かって行った。

「では、私たちも行きましょう。勇者殿」
「あっ、アリアさん」
「はい?」
「その勇者殿って止めてくれませんかね。
 どうも、壁があるような感じがして、イヤなんですよ」
「では、どのようにお呼びすれば?」
「コウイチと。もしくは、コウでも良いですよ」

「え……っと……では、……コ……コウイチ殿……。
 こ、これで宜しいですか?」
「とりあえずは、それで」
 光一はアリアに、にっこりと笑みを浮かべる。

「コーイチ、早く来んか!!
 食えんじゃろうが!!」
「はいはい、今行くよ。フィー。
 さっ、アリアさんも行こう」

 アリアは両手で胸を押さえ、赤い顔で、深呼吸を繰り返していた。
「な、なんです。この胸の動悸は。
 静まれ。静まれ。静りなさい」
「アリアさん?」
「な、なななな、なんです?」
「どうしたの? 早く行こう」
「そ、そうですねっ!!」

「アリアさん?
 右手と右足が同時に出てるよ」
「……き、気にしないでください」
「でも……」
「……こっちを見ないで」
「いや……でも……」

「前を向きなさい!」
「は、はい!!」




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