007ー勇者は 偽勇者に し゛ょふ゛ちぇんし゛ した!
中庭は、メイドの言ったとおり、誰も居なかった。
白い円卓に座った竜斗は、3人に笑みを見せる。
「さて、もう一度、自己紹介しておこうか。
俺は、上白竜斗。
17歳。趣味は情報収集と分析。
光一に巻き込まれて、別の世界から召喚された不運な高校生だ」
「私は、セラ・オル・ランセル。
16歳。宮廷騎士団所属 第7騎士分隊員。
これでも、一応貴族よ。
剣の腕だけなら、万騎長クラスと互角にやりあえると自負してるわ。
趣味は乗馬。
あ、そうそう。多少、魔術も使えるわよ」
「ワシの名は、アーサー・レイガスタ。
18歳。神官騎士見習いだ。
趣味は筋肉。特技は筋肉。信仰も筋肉だ。
筋肉の尽きぬ限り、頑張らせてもらう」
「わたしの名前は、レイフォン・アルス・フェンリルです。
歳は14歳。3級宮廷魔術師です。
宮廷魔術師団 魔術開発部 魔術・魔法陣分析構築課の課員です。
趣味は魔法陣研究です。他にも魔法全般好きです。
よ、よろしくお願いします」
「さて、まずは一番はじめに、一つだけ聞きたい」
竜斗が円卓に肘を付き、彼らを見回した。
「正々堂々って言葉をどう思う?」
左隣のセラが、しばらく宙を眺めてから、口を開く。
「正直、どうでも良いわね。
私は、私のやりたいようにやるわ。
相手に合わせてやる義理なんかない」
「ほう。筋肉。お前は?」
「正道だろうが、邪道だろうが、すべては筋肉に通じる。
見よ、この筋肉!!」
対面のアーサーが立ち上がり、すかさず|背中を見せ、二の腕を上げ、力こぶを作る《ダブルバイセップス・バック》。
こちらに振り返り、白い歯のキラメキも忘れない。
「だから、いったいどういう意味なのよ!!」
「なるほど」
「あんたも、何を納得してるの!」
「内気、お前は?」
「わたしが魔術を使うと、みんなに、卑怯だ…って言われるんですけど…………」
竜斗の右隣のレイフォンがショボンとへこみ、セラが頬を掻いた。
「まあ、あんたならそうよね」
「どういうこった? ツンデレ」
「だから、ツンデレって何よ?」
答えない竜斗に、鼻を鳴らしたセラが説明する。
「ん~、この魔法使いはね。
大規模魔術しか使えないの。
しかも、魔術を放つと、マジック・トリップを起こして、魔力が無くなるまで、ひたすら撃ちまくるのよ。
そして、魔力が無くなると即気絶。
他にも、魔力消費の少ない魔術を放つと、必ず暴走。
前にも、光の魔術を暴走させて、直径100メートルの光球が、3日3晩、王都を照らし続けたのは有名な話よ。
魔力量は超一流。魔術展開力も一流。でも、制御は見習い以下。
付いた名が『欠陥大魔術師』」
「ふ~~ん」
竜斗の目線に、ビクッと身体を震わせるレイフォン。
「わ、わたし、……クビですか……?」
「しねぇよ。
一つ疑問なんだが、よく宮廷魔術師になれたな」
「は、はい。
わたし、魔術解析や開発なんかも得意なんです。
そっちの方面で、試験に合格しました」
「な~~る。
で、内気。この筋肉のことは知ってるか?」
「え……と、少し……」
「噂程度でいい」
「……そ、それは……」
「ワシのことは構わんぞ。
噂なら、筋肉とともに聞いているのでな」
「筋肉、関係ないでしょ!」
「ウヌ!?」
「ま、そう言うこったから、ほら、話せ話せ」
「は、……はあ。
えっと、レイガスタさんは、凄い人なんです。
レイガスタ家は代々、神官騎士を輩出している家なんです。
レイガスタ家の方々は、先天的に無意識魔術を持ってる方が多いんです。
あっ、無意識魔術と言うのは、呼吸のように無意識に自分の身体に魔術をかける体質のことでして、防御の魔術や、肉体強化の魔術、回復の魔術、治癒の魔術、闇視の魔術、変わったところでは浮遊の魔術とか、巨大化の魔術もあるそうです。
……えっと、話がそれました。
それで、レイガスタ家は、防御魔術や治癒魔術、回復魔術の 無意識魔術を宿すことが多いそうです。
普通は、一人一つなんですが、アーサーさんは防御魔術と治癒魔術の2つを兼ね備えています。それもすごく強力な。
小さい頃は神童と呼ばれ、将来を期待されていたそうですが……」
ちらりとアーサーを見るレイフォンに、竜斗は一つ頷く。
「なるほど、筋肉か」
アーサーが、鷹揚に頷いた。
「ウム。いかにも、筋肉よ。
健康な体に、神の加護は宿るという。
ある時、ワシは気づいたのだ。
ならば、その加護の宿るところは、筋肉に他ならないと!!
ワシは気づいた日から、筋肉を鍛え始めたのだ!!
筋肉よ、満ちて増えよ!!
筋肉に、栄光あれ!!!
筋肉に敬意を表して、スクワット500回――」
「あー、筋肉。それは、後にしてくれ。
あんたにも聞きたいことがあるんだ」
スクワットを止めたアーサーが、振り返る。
「ヌ。なんだ?」
「筋肉。このツンデレのことは何か知ってるか?」
「う~む。噂程度で良ければな」
「それで、構わん」
「ちょっと!!」
「お前も、内気のことを話しただろ。
それに、そんなことじゃ、評価を定めたりしねぇよ。
噂が、どんだけ当てにならないものかは、嫌ってほど知ってるからな」
「…………ん~、なら…………でも、やっぱりイヤ……」
「筋肉、話せ」
セラは翡翠色の眼を上目遣いに、竜斗を睨む。
「ウム。セラ嬢のことで聞いてることは、『成り上がり騎士』という言葉だな。
両親のどちらかが、商人らしくてな。
金で貴族の地位を買ったとか言われておる。
本当かどうかは知らんが。
それで、貴族騎士たちから、爪弾きにされており、軍属の騎士たちと一緒に行動しているとか。
他には、従姉妹に聖騎士がいて、その聖騎士とよく比べられてるらしい。
ヌウ。確か、……もう一人の勇者の従者になった者だ。
ワシが知ってるのは、それぐらいだ」
「へぇ~、ツンデレって、あの聖騎士の従姉妹だったのか。
道理で顔が似てると思った」
「ふ~んだ。
どうせ、アリアの方が可愛いわよ。
性格も目つきも能力も向こうの方が上ですよ~だ」
ふくれっ面で、顔を背けて拗ねるセラに、竜斗は笑いかける。
「そうか?
俺は、お前の性格と吊り目、好きだぞ」
「……な……ななな……」
突然の告白に、セラは顔を赤くして、口をパクパクと開け閉めした。
「ムウ。勇者殿は、強気の女子が好きか」
「めっちゃ好きだ! ストライクゾーンさ!」
「じゃあ、……ランセルさんは、ぴったりですね」
セラが立ち上がって、話を振り払うようにバッと腕を振る。
「そ、そんな話はどうでもいいのよ!
そんなことより、あんたのことも話しなさいよ」
「ん? 俺」
「そう。異世界から召喚されたのは知ってるけど、向こうでは何をやっていたのよ?」
「学生」
「何、あんた。その歳で学生って、学者の卵だったの?」
「アン?」
「だって、14歳過ぎても学校行ってるなんて」
「ああ、元の世界じゃ、だいたい18歳まで学生だ。
さらに2年・4年・6年と、進学する奴が大半かな」
「何をそんなに勉強するものがあるのよ?」
「ま、いろいろとな。
あとは副業でトラブルシューター……いや、違うな。仲介屋とか仲裁屋みたいなのはしてたけどな」
「戦闘系技能は?」
「全く無し!!」
竜斗は爽やかな笑みを浮かべて、親指を立てた。
セラが頭痛を堪えるように、二本指で額を押さえる。
「そういえば……あの……」
レイフォンが怖ず怖ずと話しかけた。
「勇者さんは、正々堂々って、どう思ってるんですか?」
竜斗は、唇の片端を吊り上げる。
「大広間でも言ったが――、
俺は誰であろうと、正々堂々、罠を仕掛け、背後から不意を打ってやるさ」
「それ、どう考えても、勇者の言葉じゃないわよ。
よくて、偽勇者だわ」
呆れ混じりの溜息を吐くセラに、竜斗は弾けるように笑い声を上げた。
「あはははははははははは。
偽勇者か。
うん。良いな、それ。
俺のことは、偽勇者と呼んでくれ」
「ヌ?」
「そ、……そんな……」
「わざわざ、自分から偽勇者なんて名乗る必要ないんじゃないの?」
「いいんだよ。
表舞台で注目浴びて、正々堂々ってのは、コウがやるから。
それに、正直、俺は勇者なんてやりたかない。
偽勇者なら…………まあ、妥当な線だな」
竜斗は立ち上がり、大仰に一礼する。
「てなわけで、
勇者 上白竜斗、改め、
偽勇者 上白竜斗だ。
これから、よろしくな」
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