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059ー勇者は そ゛んひ゛ と たたかっている。
 戦場は混戦を極めていた。

 光一が天馬(ペガサス)の馬上から聖剣を振り下ろす。
 至る所に宝石を埋め込んだ甲冑を着ているゾンビを袈裟切りに斬り落とし、
 氷狼(スノー・ウルフ)が残りの身体を引き裂いた。

 だが、周りのゾンビが動きを止める気配はない。

「こいつも違ったか!」

 光一たちは死霊王(アンデッド)を探して、
 指揮官らしき格好をしたゾンビを見つけだしては、破壊していた。

「死体を回収している道筋を見ると、こちらの方向であっているのは確かです」

「フィー。
 なんか、死霊王(アンデッド)を見分ける方法ってないか?」
「ふむ。一度でも、会っておれば、どんなに姿形が変わろうとも判別できるんじゃが、
 さすがに会ったこともない者となるとな」
「コウイチ様。
 こうして、地道に司令官らしきゾンビを斃していくしかありませんわ」
「うう~~。面倒くさいです~~」

「やっぱり、アンデッド城の中にいるんじゃないのか?」
「前回の戦闘時、アンデッド城の中のゾンビを一体残らず殲滅しましたが、外のゾンビは動き続けました。
 今回も、城の中にいるとは思えません」
「ふむ。城ごと破壊されたら、終わりじゃしの」

「あ~、鬱陶しい!!
 どいつが、死霊王(アンデッド)(わか)れば、簡単に片が付くのに!」
 悪態を吐きながら、光一はゾンビを光の斬撃(フォース・ブレード)で斬り裂いた。





 空間に閃光が走り、連続で7つの頭が弾ける。

 魔力弾が、騎士、貴族、老人、美女等々、
 指揮官らしきゾンビの頭を撃ち抜いた。

 だが、他のゾンビたちは変わらず動き続けている。
 死霊王(アンデッド)ではなかったらしい。

 だが、ゾンビたちは何処から攻撃されたのか、わからなかったのだろう。
 周辺のゾンビたちが辺りを見回していた。

 
「ムウ。偽勇者の言う通りになったな」
 アーサーは口の中で呟いた。

 ――どんな形であれ、生存し続ける意志があるのならば、必ず身を守る。
 この作戦を伝えられた時、竜斗に言われた言葉だった。

 どこから攻撃されたか判別できなかったゾンビたちが、(死霊王)を護るために――、
 否、――死霊王(アンデッド)が自分の身を守るために、ゾンビたちで楯を作る。


 守りたい者(・・・・・)を中心に同心円状にゾンビが集まっているのが、
 ここからは(・・・・・)、良く見えた。


「では、ドラよ。
 ワシは行くぞ」
「ギャウ」
 そして、アーサーは、ドラの背から飛び降りた(・・・・・)

 加速していくアーサーの身体に、白い幾何学模様の線が発光する。

 高度 400メートル(・・・・・・・・)の上空から飛び降りたアーサーはメイスを振りかぶり――、

 ズドォォォォォォォン!!

 ゾンビたちの中心にいた金髪紫瞳の10歳程の少年に、メイスごと衝突した。

 土煙が立ち昇り、アーサーを中心にクレーターが出来る。

 中心にいた少女のような容姿の少年は木っ端微塵に弾け散り、
 周りにいたゾンビも衝撃で吹き飛び、半壊した姿で辺りに転がっていた。


 人体が散乱する中、
 ただ独り、全身に幾何学模様の白線を発光させたアーサーが無傷(・・)で、ゆらりと立ち上がる。


 右手にメイスを吊り下げたアーサーが油断なく、鋭い視線で周りを見回した。

 アーサーの青い瞳が宙の一点で止まり、
 風切音を立てて、メイスを切り上げる。

 アーサーの眼が右へ動き、メイスを横薙ぎに振り切った。

 何もない宙を見据え、アーサーは白い歯をキラメかせる。
「ムウ。ワシも神官騎士見習いだからな。
 幽霊(・・)ぐらい見える眼を持っておる!」

 アーサーは宙に浮かぶ死霊(・・)に、淡い光を放つメイスを差し向けた。
「筋肉失せし者など、この強き筋肉の敵ではない!!
 死霊王(アンデッド)
 おぬしなど、その正体を特定し、その存在を判別し、その位置さえ確定できてしまえば恐るるに足らず!! …………と、偽勇者が言っておったわ!」

 アーサーはメイスを振り下ろすが、
 死霊王(アンデッド)に、するりと避けられる。

「ヌウゥ……ちょこまかと……。
 ヌッ?」

 一瞬、青眼を細めたアーサーは、
 |右足を前に一歩踏み出し、上半身を僅かに倒して、鳩尾で拳を突き合わせて、胸と腕に力を込め《モスト・マスキュラー》、
「ウヌ! 死霊王(アンデッド)よ。
 無駄である。おぬしの姿は見えてるぞ!!」

 戦場に響き渡るような大声で一喝した。



 その怒号は、死霊王(アンデッド)から遠く離れたウィズとドラの(もと)まで届く。

 その言葉で、ウィズは気付いた。
 ウィズの眼には見えない者と、アーサーが戦ってることに。

 そして、飛んで来るドラの姿を見つけ、
 アーサーが死霊王(アンデッド)に気付かれないように、注意を喚起してくれたことに。

 ウィズはドラの手綱を引いた。
「ドラ。直接、アンデッド城に行くよ」
「ギャオ!」





 光一は天馬(ペガサス)を止め、戦場を見回していた。

 他の兵士も戸惑ったように周りを見回している。

 ゾンビのみが一時停止ボタンを押したように、一斉に動きを止めていた。

「……これは?」
「ふむ。死霊王(アンデッド)に何かあったのじゃろう」
「何かって……誰かが斃したのか?」

 虚空をじっと見つめていたフィーが小首を傾げる。
「わからぬ。
 支配力は弱まっておるが、戦場に満ちる死霊王(アンデッド)の魔力は減ってないようじゃ。
 死霊王(アンデッド)は斃されておらんが、何かが起きた。もしくは、起こっている。
 そうとしか言えん状況じゃな」
「大変ですわ。
 他の者に手柄を奪われてしまいますわ。
 すぐに、探し出さないと!!」

「兎に角、アンデッド城の方へ行こう」

 焦る光一を、アリアが諫めた。
「待ってください。コウイチ殿。
 これも死霊王(アンデッド)の罠かもしれません。
 このゾンビたちが、再び動き始めれば袋の鼠となります」
「うっ! ……そうか」
「どうする?
 ゾンビたち、バラバラにする?
 竜巻で一発ですよ」
 首を傾けて見上げる桃髪赤瞳のアリエルに、
 アリアが二本指で額を押さえ、柳眉をひそめる。
「止めなさい。アリエル。
 味方を巻き込むでしょう」
「…………でした」

「コーイチ。悩んどる時間は無いぞ」

「………………決めた!!
 このまま、行くぞ」

「このままですか?」
「そうだ。
 指揮官らしきゾンビを破壊しながら、アンデッド城に向かう。
 もし、その中に死霊王(アンデッド)がいれば、それで良し。
 動き出したとしても、指揮官がいなければ統率は取れないだろう。
 他のゾンビは軍に任せる」

「む。コーイチ。
 ゾンビどもは、指揮官が別個に――」

「流石、コウイチ様ですわ!!
 死霊王(アンデッド)を追い詰めつつも、防御を考える。
 それでこそ、勇者様ですわ!」

「みんな。()こう!!
 死霊王(アンデッド)に引導を渡してやる!」
 光一は天馬(ペガサス)の馬首を返した。

「は~~い」
「了解です」
「わかりましたわ」
「――指揮しとるわけじゃなく、全て、死霊王(アンデッド)が統括しとる…………。
 …………ふむ。まあ、いいかの。
 最悪、ゾンビに囲まれても、このメンバーなら切り抜けられるじゃろ。
 それもまた、一興じゃ」

 光一たちは騎士や貴族など、立派な身なりをしたゾンビを斬り裂きながら、
 アンデッド城を目指した。





「偽勇者さん!!」

 大広間に入ってきたウィズの方を見向きもせず、
 床の魔法陣の一部を消して、精霊石のチョークで新たな線を引きながら、竜斗が返事をする。
「なんだ。描き終わる前に、決着ついちまったのか」
「いいえ。アーサーさんが見えない敵と戦っています。
 たぶん、幽霊の(たぐい)だと思いますが」
「ああ、ケースその3か」

 大広間の扉に背を預けているセラが、
 床に座り込んでる竜斗を見下ろした。
「『吸血鬼のネクロマンサー』や『本物の不死』じゃなくて良かったわね」
「そうだな。
 まあ。個人的には、美少女吸血鬼じゃなくて、ガックリきてるけどな」

「いやいやいやッ!
 吸血鬼はモンスターです。血を吸い尽くす鬼ですよ。
 美少女だろうが何だろうが、厄介な敵でしかありません!」

「……この世界って、モンスターに対してだけは、シビアな見方しかないんだよなぁ」

「他に、どんな見方があるんです?」
「愛でる」

「無理ですッ!!」


「思ったよりも遅かったわね。
 銃使い」
 扉に寄りかかるセラに、ウィズが肩を竦める。
「ええ。
 範囲を区切って、ライフルで炙り出しをしたんですけどね。
 結局、49発も撃つ羽目になりました。
 充填(魔力充填)した換えのライフル用精霊石(マガジン)を持って来なかったら、魔力切れしてましたよ」
「あとは、神官次第ね」
「何にせよ。
 アーサーさんが負けることはないと思いますよ。
 ていうか、僕には、今のアーサーさんが負ける姿がまったく、想像できません」
「それには同感」


「それにしても、偽勇者さん」
 ウィズが大広間の床一杯に、精霊石チョークで描かれた魔法陣を見渡す。
「こんな詳細で、でっかい魔法陣に、
 フェザー貨を使う必要あるんですか?」

死霊王(アンデッド)斃す為のものじゃない(・・・・・・・・・・)からな」

「へっ?」


「偽勇者さん。
 それが最後の修正です。
 他の回路(魔法陣)チェックも終わりました」

「や~っと、終わりやがった」
 立ち上がった竜斗は(チョーク跡)を踏まないように、魔法陣の中央へ行き、
 懐からフェザー貨(ドラゴン貨)を取り出すと、正六角形に並べ置いた。

 線を踏まないように飛び跳ねながら、セラたちの所へ戻ってきた竜斗が、
 レイフォンの肩を叩く。
「内気。あとは、任せる」

「はい。任せてください!」



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