049ー偽勇者のまえに と゛らこ゛ん か゛ あらわれた。
竜斗たちは空を滑空するドラの背から、
針葉樹と広葉樹の入り混じった山を見下ろしていた。
切り立った崖などは少なく、地肌を晒している所も少ない。
「なだらかな山だな」
「休火山だからの」
「な~る。じゃあ、温泉も出るのか?」
「うむ。勿論じゃ」
「そいつは、楽しみだ」
竜斗とフィーの会話を遮って、セラが山の中腹の一角を指さした。
「リュウト、あれ見て!」
「村?
ドラ、あそこに降りてくれ。
3人とも警戒を怠るなよ」
「了解」
「わかりました」
「ふむ。人の気配はせんがのう」
*
「偽勇者さん。やっぱり、廃村みたいです」
弩を手に、村を見回ったウィズが竜斗の所に戻ってきた。
「死体は?」
「ありませんでした。
伝染病でやられたわけじゃないと思います」
「過疎にしては、変な村だよな。
見張台の高見櫓なんかあるし、家の朽ち方が大体同じだし」
「ふむ。大方、盗賊の隠れ里だったかもしれぬな」
赤い唇に指を当てるフィーに、セラも同意する。
「それ、当たりかもね。
村の出入り口は狭く作ってあるし、
あそこの壁は、出入り口から身を隠して防衛するために作られた物だとしたら、辻褄が合うわ」
空き地の広さを、槍を使って測っていた竜斗が身体を起こした。
「なんにしても、俺たちにとっちゃ好都合だ。
ここの広さも20メートル×30メートル。
ここまで、ガイアレイズをおびき出せれば、言うことなしだな」
「そうね。
地面もしっかりしてるし、これならアリアも全力を出せるわ」
「それから、向こうに獣道があって、降りると川に出るようです。
あそこに井戸があるから、生活水はそこから取ってたんでしょうけど」
「へぇ、斜面の向こうは川か」
耳を澄ますと、微かに川音が聞こえてくる。
対岸には山の中腹が見え、木々が青々とした葉を茂らせていた。
「その川の水量は?」
「上流の川だから、水の量はそう多くないですね」
「ん~~、川底に叩き落としても、溺れそうにねぇな」
「ただの水浴びになりますよ」
「だよなぁ。
だったら、大量に酒を用意して、呑んだガイアレイズが酔って寝てる隙に斃すとか」
「ワイバーンて、お酒、呑むんですか?」
「知らん」
「馬鹿者!!
ガイアレイズに呑ます酒があるなら、我が呑むわ!!」
竜斗はフィーをじっくりと眺める。
「ん~~。
……ガイアレイズ以上の大物を討ち取ったので、これで勘弁してください。って、姫さんに言うかな……」
「そりゃ、確かに大物ですけどね!!
何の解決にもなってませんよ!!」
「さあ、リュート。酒を用意せい!」
「こっちは討たれる気、満々!?」
竜斗は黒髪を掻いた。
「やれやれ。戦える地は見つかったが……、
ガイアレイズをどうやって、この地におびき寄せるか?
戦いの最中、ガイアレイズをどうやって、この地に引きつけとくか?
堅い皮膚を持つ、ガイアレイズをどうやって斃すか?
問題山積みで、楽しくなってくるな」
「大量の生肉でも置いとけばいいんじゃないの?」
「ガイアレイズよりも、狼が寄って来そうだけどな」
「なら、その狼も斃して、餌に加えるとかどうですか?」
「先に狼が来てから、ガイアレイズが来れば良いが、
ガイアレイズと戦ってる最中に、狼が寄って来たら最悪だぞ」
「うわっ、想像したくない!!」
「竜をおびき寄せても、餌だけ取って逃げられたら元も子もないし」
「だよなぁ」
「地面に縛り付けられれば良いのじゃがな」
「だから、どうやってよ?」
「フィー。その案、いただき!」
「ふむ?」
「は?」
「へ?」
竜斗は周りを見回し、靴先で地面を軽く掘る。
「ん。いけそうだ。
こいつで有利になるな。
ここじゃ、内気の魔術は使えないし」
「レイが魔術を撃ったら、山崩れが起きるわよ」
「崩れるよりも、消し飛ぶかも」
「その内気を、地面に縛り付ける役にする」
竜斗の考えを読んだフィーが、薄い笑みを浮かべた。
「なるほどのぉ……、それが一番じゃな。
じゃが、どうやってここにガイアレイズをおびき寄せるのかの?」
「それが問題だよなぁ」
槍を肩に担いだ竜斗が黒髪を掻いてると、微かな振動が伝わってくる。
紫の眼を細めるフィー。
「む、これは……」
「ギャオン!!」
「ッ!! みんな、ドラに乗るんだ!!」
ドラが警吠を発し、竜斗が焦ったように3人へ叫んだ。
全員がドラに乗った直後、
『ガイアレイズ』が村を囲う柵を破壊し、巨大な尾を振り回して、突進してくる。
「ドラ!!」
「ギャウ!!」
竜斗の声で、ドラが大空に飛び立った。
頭から尻尾の先端まで7メートル。
赤茶けた皮膚に、獰猛な牙と歯並び。
長い腕と鋭い6本爪。
腕に張る蝙蝠のような羽根。
縦に割れた瞳孔。全体重を支える太い2本足。
「まんま、羽付き恐竜じゃねぇか!!」
恐竜が、上空に向けて大口を開いた。
「ぬ!? あやつ、まさか。
防護結界!!」
フィーの展開した結界が、ドラと竜斗たちを覆う。
ギュアアアアアアアアアアアア!!
ガイアレイズの口から吐き出された衝撃波が、結界に当たり、
衝撃で、ドラが弾き飛ばされた。
「グッ!!」
「キャア!!」
「ウワッ!!」
「束縛!!」
咄嗟にフィーが施術した束縛の魔術が、竜斗たちとドラを結び、転がり落ちるのを防ぐ。
体勢を整えたドラが必死に羽ばたき、ガイアレイズから距離を取った。
「追って来ないな」
小さくなるガイアレイズを見、竜斗が安堵の溜息を吐いた。
「ガイアレイズの羽は、主にジャンプする時の補助に使うものじゃからのう」
「じゃあ、あのワイバーンは飛べないんですか?」
「いいや、飛べる。
飛ぶ時は魔術を使うのじゃ。
じゃから、発動に時間がかかり、
地面に降りると、再び飛び上がるまで時間が必要なのじゃよ」
「つまり、地面に引きずり降ろせば、飛べないってこと?」
「その代わり、死にもの狂いで攻撃してくるじゃろうがな」
セラたちの会話を聞きながら、竜斗は顎に手を当てて、考え込む。
「あのガイアレイズ。なんで、俺たちの所に来たんだ?」
「ふむ、そうじゃな。
大方、このドラ坊の臭いでも嗅ぎつけたんじゃろう」
「そういや、ドラゴン属は総じて、縄張り意識が強かったな」
「ふむ」
「それって……」
「つまり……」
「ああ、ドラを囮にできるってことだ」
「ギャウ?」
*
光一が取った宿屋の夕食は、山の幸をふんだんに使ったものだった。
西の港を魔王軍に占領されてから、王都に海の魚がほとんど入って来なくなっていたため、
竜斗と光一が川魚に、喝采の声を上げていた。
山菜の豊富な食事が終わった後、
長テーブルを2つ貸し切り、大雑把に地形の描かれた地図を広げ、
竜斗が今回の作戦を説明した。
「――――作戦は今、話した通りだ。
日の出前の朝4時に出発し、
廃村でドラを囮に、罠を張って待ち構え、
内気の魔力で地に縛り付ける。
ツッコミ。お前の配置は、後で個別に話し合おう。
何か質問のある奴はいるか?」
見回す竜斗に、青髪青瞳のシェラが睨みつける。
「なぜ、あなたが仕切ってるのですか?」
「…………このチビ巫女は――。
何か、作戦について、質問のある奴はいるか?」
「わたくしの質問に答えなさい!!」
激昂するシェラの前に、
一升瓶を抱え込んで、酒を呑んでいるフィーを押し出した。
「フィー。代わりに、説明しといてくれ。
他には?」
輝くような金髪を揺らしたアリアが、すっと白い手を上げた。
「何故、朝4時に出発なのですか?」
「ガイアレイズは変温動物だからな。
太陽が出るまで、動きが鈍いんだよ。
巣穴から出てこないはずだから、その間に罠を仕掛ける」
「でしたら、その時間帯に巣穴へ奇襲をかければ良いのでは?」
「ガイアレイズも魔術が使えるからな。
自分の身体を暖める魔術は、基本中の基本だろうよ」
「そういえば……そうでしたね」
「コウ。なんか、あるか?」
「よく、こんな作戦、思いつくな」
「当たり前だ。
こっちは、元の世界から、まともに戦えば絶対に負けるような組織ばかり、相手にしてたんだよ。
何もなければ、終わりにするぞ」
不機嫌そうに頬を膨らませているシェラを見、
セラが竜斗に緑瞳を向けた。
「水の巫女に睨まれてるわよ」
「だから、なんだ。
ご機嫌でも取れってか?
冗談じゃないね」
が、竜斗は全く気にしてない。
「明日の竜退治に影響しない?」
「するようなら、朝の段階で外すさ。
戦力的にきつくなるが、そんときゃ、初めから居なかったものとして考える」
「なんですって!!」
怒声を上げるシェラを、竜斗は一瞥した。
「いったい、お前は何が気に食わないんだ?」
「あなたが、わたしたちのリーダー面していることですわ」
「フィー。説明は?」
「なんで、我が。面倒臭い」
「おい、こら。
お前んとこのメンバーだろうが」
「知らんな」
酒杯を一気に空けるフィー。
そんなフィーの唇の端に、試すような笑みが薄く浮かんでいるのを見、
竜斗が半眼で睨めつける。
竜斗が一つ、溜息を吐き出した。
シェラの隣で、笑顔でデザートを頬張っているアリエルを眺めてから、目配せしてくる竜斗に、
セラが無言で頷き、さりげなく鞘に手をかける。
「チビ巫女。お前がリーダーになりたいのか?」
「そんなことは言ってませんわ」
「なら、コウにやらせるべきだってか?」
「ええ、そうですわ!
あなたみたいな『紛い物』ではなく、『本物』が皆を率いるべきですわ」
「何も考えずに、真っ直ぐ、山に入ろうとした奴にか?」
「それでも、わたくしたちは勝てますわ」
「死傷者は?」
「え?」
「死傷者が出る可能性は?」
「わたくしたちは平気です。
ドラゴンごときに負けはしません」
「お前たちはな。
なら、俺たちのメンバーは?」
クスッと、微笑むシェラ。
「それは、あなたたちが弱いせいですわ」
「つまり、俺たちが死んでも関係ねぇってことだろ!
そんな奴に、リーダーが務まるわけねぇだろうがっ!!」
ギンッ!!!
アリエルの銀剣と、セラの細剣が打ち合わされた。
竜斗がシェラを一喝した瞬間、
シェラの隣に座るアリエルが銀剣を鞘走らせたのである。
竜斗の首筋に刃が叩き込まれる寸前、
抜刀したセラの細剣が防いだ。
無表情のアリエルの光の無い赤瞳と、
感情の抜け落ちたセラの緑瞳が交差する。
「すまんな。ツンデレ」
「……精霊騎士がヤバイって聞いてたけど……、本当みたいね」
セラとアリエルの鍔迫り合いを一瞥した竜斗は、シェラに黒瞳を向けた。
「さて、チビ巫女。俺の意見に反論はあるか?」
「せ……戦闘に、死傷者は付きものですわ」
「そりゃ、戦闘すりゃ死人が出る可能性はあるさ。
だが、死者が出る可能性があるとわかっていて、
――未来にデメリットがあるとわかってて、
何とかなると安易な予測で、何の対策も取らねぇのは馬鹿のやることだろうが」
「だからって、あなたが――」
「シェラ、竜斗。喧嘩はそこまでだ。
アリエルも剣を引くんだ。
明日は早いし、ドラゴンと戦闘なんだろ。
なら、こんなことで仲違いするべきじゃない。
それにシェラ。俺は別にリーダーになりたいわけじゃないし、
竜斗がやってくれるというなら、任せるさ」
「…………コウイチ様が、そう言うのでしたら……」
シェラが渋々と承諾すると同時に、
無表情無感情のアリエルが銀剣を引き――、
瞬転、満面の笑みに切り替って、食事を再開する。
眉間を指で押さえる竜斗。
「…………コウ。……お前……喧嘩って……」
「ん? なんだ?」
「…………いや、何でもない。
主人公体質のお前と、英雄級のお前のメンバーは死なんだろうさ」
脱力した竜斗が、納刀したセラに向き直った。
「ツンデレ。脇役で凡人の俺たちは、死なないように作戦を練るぞ」
「勿論よ。
絶対に、生き残るわよ」
「わたしも……死にたくありません」
「僕なんか、一番ヤバイです」
「ウヌ。ワシも――」
「いや、筋肉。お前だけは、何があっても、絶対に大丈夫だ」
「「「 同感 」」」
「ヌウッ!?」
*
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